|
PEOPLE HAVE THE POWER! 日頃クアトロやZEPPに通い、ライヴ・レポを書きまくり…な私も、実はずっとロック・ファンとしてどこか「片手落ち」な気持ちを抱えたままだった。それは他でもないフジロックをまだ未体験だったからだ。5年目の今年、初参加に向けて私の背中を力いっぱい押してくれたのは、やはりパティ・スミスであった。97年の初来日以来4年ぶり。去年もいったんはフジ候補に挙がりながら結局は実現しなかった。今年こそ何があっても行かなければ! そう決めて上司のひんしゅく買いまくりで休みをもらい、現地で会う友人達との連絡用に携帯も買い、と準備するものの、最悪の雨や寒さを考えるとどんどん荷物が大きくなっていく。本当に3日間、こんなの抱えて乗り切れるのかなあ…。 あれこれ考えるうちに不安になった私は、最後に少し黄ばんだエアメイルをお守り代わりにリュックに詰めた。88年「ドリーム・オブ・ライフ」を発表してロック・シーンに復活したパティ本人からもらったクリスマス・カードの返事である。「こんな極東の国にもあなたのファンがいることを忘れないで下さい」と書いた私に「もちろん。日本の音楽や美術、文学は刺激的だといつも思っているのよ」と答えてくれた一枚の紙。だいじょうぶ。これできっと素晴らしい3日間になるよ――。 「やっぱり "PEOPLE HAVE THE POWER "かな。フジにふさわしいもん」「"GLITTER INTHEIR EYES"もいいよ」「"GLORIA"とかは?」「あれはアンコールというか締めでしょ」 そして、いよいよ7月28日。いよいよグリーン最前でパティ登場を待つ間、同行の友人と1曲目当てクイズなどやりながらも、もうドキドキ。もちろん夕べのマニックスもオアシスも、さっき見たホットハウスももちろん、お目当ての一つだったし、素晴らしかった。だけど、私が年齢や性別の偏見に流されることもなく、ここまでロックを追っていられるのは、まちがいなくパティのロックとあの手紙のおかげなんだ。 15時30分。歓声とともにパティ登場。4年ぶりに見たパティはとてもにこやかだ。からし色のTシャツに下はアーミーの迷彩柄パンツに黒いブーツ。黒いジャケットを羽織って、両手にそれぞれ赤と青のリストバンド。あれ? クラリネットなんか持ってる…と思う間にゆっくりと始まったのは、てっきり締めだと思っていた"GLORIA"。うわ、いきなりこんなの、どうしよう!と焦りつつもしっかり叫ぶ、叫ぶ。G・L・O・R・I・A!挙げた手がもう下げられない。既に圧死寸前状態の盛り上がりだ。 「ああ、なんてカッコいいんだろう!」「うわ〜、まさかこんな曲聴けるなんて!」 "SET ME FREE"や"FREDERICK"と来ると、もう泣きそうになりながら、頭の中にはこの2言しかまわっていない。新作からの"GLITTER IN THEIR EYES"は当然にしても、まるで前回の初来日までの25年間を埋め合わせるかのように、前回やらなかった古い曲のオンパレードだ。ああ、ありがとう。パティ。初めて生で聴けたよ。 "DANCING BAREFOOT"では、何とステージ下に降りてきて、すぐ目の前を駆け抜け、一瞬、新曲?と思い、すぐにはわからなかったナンバーも、実はニルヴァーナのカバー。そして、"SEVEN WAYS OF GOING"ではクラリネットも初披露。"BECAUSE THE NIGHT"の大合唱を挿んでの"PISSING IN THE RIVER"で、「初もの」泣きもここに極まる。 そしてパティが「過去なんてうんざり、でも未来とはやりまくり!」と叫ぶと、あの最高に血の騒ぐロックン・ロールが始まる。そう、"ROCKN' ROLL NIGGER" だ。"ALL RIGHT FUJI!"を連呼しながら、彼女の叫ぶ詩が言葉の意味など飛び越えた強烈なエネルギーとなってぶつかってくる。やがて彼女自らギターをかき鳴らし、最後は弦を引きちぎって"THANK YOU EVERYBODY!"の笑顔と共に去っていった。ギターのノイズだけが延々と響きわたる中、夢の数十分が終わる。 その後も延々沸き起こるパティ・コール。壮絶な歓声。自分の身を守るのに必死で、後ろを振り返る余裕などまったくなかったが、後方もすごい盛り上がりだったことに初めて気づく。「もう死ぬかと思ったね」「でも、死んでもいいと思った!」押されてはぐれかけた友人とただただ笑いあった。 ――たった1回のショウのために、こんな遠くまで来ちゃうなんて、まったく信じられな いわよね! 最終日、レッド・マーキーで見たアーニー・ディフランコは、いつもの調子でカラカラと笑い飛ばしていたが、そのたった1回のショウの素晴らしさがすべてを超えるところに、 フジの魔法がある。苗場までの遠さも、とんでもない暑さ寒さも、ステージ間を歩き回って汗と埃にまみれることも。その他ありとあらゆる不便や疲れもを超えて、ここで見聞きしたことが何よりも深く心に刻まれていくのだ。本当に見れてよかったよ。ありがとう、パティ。ありがとう、フジロック! -- SET LIST --
1.GLORIA
Reported by Ikuyo Kotani. |