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ユーロプログレ。その深い沼のような世界は気軽に入っていくことを許さない雰囲気がある。キング・クリムゾン、ピンク・フロイド、イエスなどの70年代のイギリスのプログレッシヴ・ロックを一通り聴いてクリムゾンなんかは多数のライヴ盤を持っていたりする自分がどうしても踏み入れることが出来ない領域がユーロプログレであった。とりあえず、書籍による知識でいくつかのバンドの名前は知っていたが、お金が無いのでそこまでフォローできないし、情報がイギリスのバンドと比べると圧倒的に少なかったので(当時ネットという便利なものは無かったんで。今ならマグマのファンが作るページを探し当てることが出来るが)、一度ハマったら2度と帰って来れないような印象を抱いていた。そんなわけで、今回マグマのライヴに曲もメンバーの名前も知らないという状態で行ったことをお許しいただきたい。 会場はON AIR WEST。向かい側はカテドラルとかいうヘヴィ・メタルバンドのライヴが行なわれていて客層が好対照。こちらの年齢は30代以上が中心、スーツ、眼鏡率が高い。80%は男である。 メンバーが登場。男2人、女2人の計4人がヴォーカル。ギター&キーボード、ベース、キーボード、ドラムの総勢8人の編成である。ドラムの人(Christian Vander:クリスチャン・ヴァンデ)がどうやらリーダーである。演奏が始まって、まず驚いたのはステージの端にいる4人のヴォーカルがいわゆるロックの発声でなく、混声4重唱団というべきクラシックに近いヴォーカルのスタイルなのである。男2人はテノールで女2人はアルトという感じ。さらにこの人たち何語で歌っているの?フランス語?ドイツ語っぽい感じもあるしイタリア語かな?と思って後日調べると、なんとコバイア語というこのバンドのオリジナルの言語なんだそうだ。始めのうちはアンサンブルの凄みを見せつけるのではなく、ピンク・フロイド的というか決して下手ではないけど、あまりテクニックを誇示するようなタイプの人たちなのかなあ、と思っていたところ、途中からドラムのクリスチャンが首を激しく横に振りながら迫力のあるドラムを叩きまくる展開から、キング・クリムゾンかイエスかという感じのヘヴィで緊張感のあるバンド・アンサンブルに突入。演奏が高揚したところへ4人のヴォーカリストがステージ中央に出てきて歌いまくる。この中年男女の4人組を見て不謹慎にも「ABBA・・・」とくだらないこと連想してしまった。もちろん、迫力は全然違うけど。 一曲目が終わるとキーボードにトラブルが発生。鍵盤の音のひとつが出なくなったそうだ。ヴォーカルの女の人(Stella Vander:ステラ・ヴァンデ、ドラムの人のパートナーらしいです)が「オオサマサン」とスタッフを呼んでメンバーはステージから一旦去る。結構時間がかかり、客席から「大山さん早く!」との声も。無事修理を終え、大山さんは客席から拍手喝采を浴びる。 二曲目はギタリストがキーボードに回りギターレスの編成に。それにしてもドラムは迫力十分。普通プログレのドラマーはタムをよく叩くイメージがあるのだけど、この人はシンバル重視である。シンバルの間をスティックが舞うという感じのドラミングは素晴らしい。この人の頭頂部は河童を想起させるが。 二曲目が終わると「10分で戻ってきます」と男性ヴォーカルのAntoine Paganottiが日本語で言う。この人は日本人とのハーフだそうだ。で、その休憩を挟んで三曲目がまた凄かった。イントロで大歓声が上がったので、有名曲なんだろう。各人のテクニックと気迫の応酬が凄まじい。途中ベースソロがあって、あまりの指の高速運動ぶりに唖然とさせられる。もう、ほとんど早弾きギターソロ。しかも弦まで切ってしまう。そんなベーシスト(Philippe Bussonnetという人)観たことないよ。そしてギターソロも凄かった。派手ではないけど細かい指の動きのプレイは正確無比。 アンコールはクリスチャンがステージ中央に立ちヴォーカルを取る。体格のせいか実にいい声で歌う。最初はキーボードが奏でるミニマルなフレーズだけの伴奏で徐々にコーラス、ベース、ギターが加わっていく、ドラムレスの美しいバラード曲である。どうやら新曲らしい。この美しい曲は今の「ポスト・ロック」とか「音響派」と呼ばれるジャンルが好きな人に是非聴いてもらいたいと思った。 シンプルでわかりやすい言葉で相手への想いを伝えたり、社会の不満を述べたり、日常の苛立ちを訴えたりという音楽も素晴らしいが、訳わからん言葉で歌い、各自の持てる技術をぶつけ合い「なんじゃあこれは!」という異空間を作り上げてしまう、このバンドのような音楽も確実なインパクトを我々の心に残す。そう、建築のように聳え立つ音楽もこの世界にあってよいのだ。 MAGMAのオフィシャルページ http://www.seventhrecords.com/ ---セットリスト---
1.Theusz Hamtaahk アンコールは新曲 Reported by ノブユキ. |