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よく知らないバンドのライヴでも、事前に多少はアルバムを聴き込み、曲名の一つも覚えてから行こうとする私だが、モグワイのあの浮遊感にははっきりいってお手上げだった。何度そうしようと思っても、聴いているうちに心地よくて、そんな事どうでもよくなってしまうからだ。こりゃもう何も考えず思いきりハマるしかない。 と、開きなおって出かけたこの日のBIG CATは、何とソールド・アウトの大盛況。最前に座り込みビールをあおる間、ああ、こんな感じでふわふわしてられたらいいなあ――なんて思っていたが、夢見心地もそこまで。開演前にはもう座っているのも許されないぐらいぎっしりの人で埋まる。 15分ほど定刻を過ぎた頃、流れてきたのは何とブラック・サバス。"SABBATH, BLOODY SABBATH" 。確か70年代当時は「血まみれの安息日」なんて邦題がついていた1曲だ。似合わんなあと笑ううちに、まず2人のギターが登場。カッティングを重ねていく中、残りのメンバーが続く。オープニングは"MOGWAI FEAR SATAN" だったろうか。やがて、あの浮遊感が次第に轟音へと変わる。 左スピーカー前にいた私は、目を閉じると自分の全身が彼らの音で出来ているような錯覚に囚われた。怒りでも興奮でもない。何を訴えるでもなく、ただ音が自分に叩きつけられてくるその迫力。でかい音には慣れてるはずの私もクラクラする。低音が歪み気味になる時など、音の振動で自分がまるごと震わされて息ができないぐらい。 そんな轟音の渦と、溶けてしまいそうに穏やかな音との谷間を行き来しながら、ステージは本当に淡々と進む。時にパイプ椅子に座り、客に背を向けてリズムを刻んだり、カッティングにあわせて自分が飛び跳ねたり…とやる方もマイペースなら、客もまたそれぞれ。思い切りヘッド・バンキングしている者もあれば、眼を閉じて何となく揺れてる者も。最新作「ROCK ACTION」にはヴォーカル入りの曲もいくつかあったが、この日、そのかぼそいトーンの歌が聴けたのは1曲。ツアー最終日ということで感謝のコメントをはさんでラスト"TWO RIGHTS MAKES ONE WRONG" まで1時間半あまりで終了。 アンコールで再登場したスチュアートは、今までのクールな演奏ぶりとはうって変わって、「イエ〜」なんてお客を煽って陽気にメンバー紹介を。場内の緊張感も一気にほぐれる。「で、うちのマネージャーにはブーイングを!」なんて笑わせてくれた後、始まったナンバーは、まるでドアーズの"THE END"のような雰囲気だ。静かに始まり轟音を登り詰める彼らの攻撃もここに極まる。音の嵐は20分近く続き、最後はギター、ベースがアンプの壁に立てかけられたか思うと、各々がうずくまり足元のエフェクターをいじりながらノイズを大放出。強烈な耳鳴りと放心状態の中、圧巻のショウは終わった。 いつもアーティストの訴える熱いものに惹かれてライヴに通う私なのに、何も叫ばない音にこれほど圧倒的な存在感があるなんて、まさしく眼からうろこの一夜。ただ音がそこにあるだけでいい――という気持ちにさせられたのは、あのフィッシュ以来だが、その轟音の緊張感たるや他に比べようがない。昨年のフジを始め、とにかくライヴがすごいと聞かされてきたモグワイ。ようやく初体験した私もやはり「すごい」の一言に尽きる。 Reported by 小谷育代.
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