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初めてJJ72の"BROKEN DOWN"を聴いた時の衝撃は、今も鮮烈に残っている。メロディ をなぞるだけのギターをバックに、まるで大海原を渡る風のように朗々と響きわたる歌。これは生で聴いたら鳥肌ものだ――! そう思って即ライヴ参上を決めた。アコースティックからノイジーの極みまで、自在に行き来しながら展開するギター・サウンドは、さほど目新しくもないが、ドラマティックでエモーショナルな歌は、ダブリン出身と聞けば納得してしまう。しかし、恥を承知で書いてしまうが、私は男2人女1人のメンバー写真を見ても、そのヴォーカルをとっているのは紅一点の彼女だと信じきっていたのだ。最近になってクレジットをよくよく確かめてみた時のショックと言ったら! ヴォーカルはマーク? 男だったの? ほんとにあんな声を出すんだろうか? ショックは興味へと変わり、いざクアトロ最前列へ。ソールド・アウトかと思うほど、ぎっしりのファンで埋まる。開演までのBGMはスマッシング・パンプキンズ。うん、ノイジーなギターはちょっと通じるものがあるかな。 7時15分、3人が登場。ステージ左手にヴォーカルとギターのマーク。右手はベースのヒラリー。後方にドラムのファーガル。皆、シャツやロング・スカート、それに各楽器に至るまでみごとに黒で統一している。 "If you don't believe me, I shalleat you... " ホラー映画の1シーンのようなイントロに続いて、オープニングは、アルバム同様"OCTOBER SWIMMER"。ああ、本当だ。金髪で可愛らしくて、まだ少年と言った方がいいようなマークが歌っている。でも、本物の声は聴いていた印象よりも男っぽい。あ、当たり前か。右スピーカー前にいた私は、ヒラリー嬢のすぐ目の前だったが、とっても大きな瞳の美人ベーシストはニコリともせず、ひたすらラインを刻んでいる。クールな女王様って感じだ。続いて、思いっきりポップで乗りのいい"LONG WAY SOUTH"で、フロアの皆が跳ね出した。一見静かに始まりつつ、ドラマティックな展開の"SURRENDER" あたりから、マークの歌声も本領発揮。どんどん力が入り、最後は搾り出さんばかりの熱唱へと変わる。 中盤、アコースティック・ギターを持ったマーク1人がステージに残り、聴かせてくれたのは"DESERTION"。本当にウィーン少年合唱団ではないが、声変わりしてないんじゃないかと思うような高く透きとおった声が響きわたる。そのまま"IMPROV"などアコギ・ヴァージョンが続き、"WILLOW" のイントロのギターが始まったところで、再びヒラリーとファーガルも参加。合間の曲紹介もなければ、名前を呼ばれても返事を返すわけでもない。新人らしからぬ不敵ささえ漂わせながら、ステージは淡々と進む。そうして終盤、一番の盛り上がりナンバーは、"OXYGEN"。マークがヴォーカルのタイミングを一瞬ずらしたので、ようやく客席からも笑いが起こった。 アンコールは、思いきりスローなパートと、ギンギンなパートの差がいっそう強烈な"BUMBLE BEE"。そんなギターに乗せて、本当に声が枯れんばかりに叫ぶマークは、何と最後には思いっきりギターを床に叩きつけて壊してしまった。まるでそんなイメージがなかった分、これにはびっくり。そして3人が去った後は、見事に粉々になったギターのボデイを、ネックを、とファンが奪いあう。すぐに客電がつき、スタッフがステージをかたづけ始める。ギターの残骸と圧倒的な歌の余韻だけが残り、あっけない終幕となった。 アンコールまで全部含めても1時間足らずの短い時間。気がつけば、楽しみにしていた"BROKEN DOWN" も聴けずじまいだ。しかし、若さと勢いだけで突っ走る並みの新人とは明らかに異なるエネルギーを秘めたJJ72。何も語らずとも、その歌だけで強烈な印象を残してくれた彼らは、この先も絶対に目が離せない。 - SET LIST -
1.OCTOBER SWIMMER - ENCORE - 13.BUMBLE BEE
* Special thanks to: M. Nishida
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