井の頭線の渋谷駅の改札内にあるコインロッカーに、白いTシャツ、短パン、頭タオルの2人組が荷物を詰め込んでいる。ここにもライヴに備えている人がいる。この場所からライヴ会場まで結構距離があるけれども、彼らは真冬の渋谷の街をクアトロ目掛けて走っていった。 昨年の2月にハイ・スタンダードのイベントで彼らのライヴを観て以来、自分の中で最も重要な日本のバンドになった。極限まで研ぎ澄まされたハードコア・パンクを基本としつつ、さまざまな音を貪欲に取り入れ、パンキッシュな疾走感を保ちつつ哀愁のあるメロディや民俗音楽的なアレンジでアジアの血を色濃く感じさせるのは、他のコア系と呼ばれるバンドと一線を画している。 優れたアーティストは影響を与えた作品をリスペクトし、聴く者の探究心を刺激するもので、例えばビートルズやストーンズはブルースなどの黒人音楽の魅力を伝えたし、日本でいえば、電気グルーヴがテクノをミッシェルガン・エレファントがパブ・ロックを、というようにブラフマンも内外のハードコアバンドの先輩達と共演する一方、オープニングSEにはブルガリア民謡を使い、ライヴビデオにスペインのバスク地方の女性デュオ、アライツ・エタ・マイデルの曲を使い、さらに共演したりしている(なお、最新のミュージックマガジンにはブラフマンとアライツ・エタ・マイデルとの興味深い対談が載っている)。ブラフマンは日本だからこそ生まれた雑食のパンクバンドなのである。 さて、フロアに大勢の人が集まり立錐の余地がない状態。集まるお客さんのスタイルはもちろんTシャツ、頭タオルだ。いつでも発火OKの状態になっている。例によってブルガリア民謡の「お母さん、お願い」で登場。まずは「ROOT OF TREE」で始まる。スローな出だしで早くもモッシュやダイヴが発生している。 しかし、この日のトシロウ(ヴォーカル)は今ひとつで、息切れしたのか一部歌ってなかったりした。彼らのライヴは圧倒的な力で観客を引っ張ってきたのであるが「客に煽られてライヴやっていいのかよ」という声もあったように、この日は相変わらずモッシュ&ダイヴの嵐を起こしている観客の熱気がバンドを上回り、会場内の歯車がほんの少し噛み合ってないように感じた。それはスローな曲でもダイヴをする観客がまるでお約束のように暴れるのも一因かも知れない。自分はたまにダイヴもするし、モッシュピットに入っていったりするんで、別に暴れること自体は全然OKなのだけども、もう少しバンドが放つ音を自分の体で受け取るときに起きるマジックをきちんと味わおう、と言いたい。いい音を浴びた時には自然に体が躍り出すはずだから。 そんな状態の中、トシロウも最後の方は力技でテンションを高いところまで持っていった。ドラムのロンヂもジョン・ボーナムのテクと迫力にキース・ムーンの狂気を加えたような凄まじいドラミングにほんの一歩届かず。それらはいつもギリギリの状態でライヴをやっているせいなのか。もちろん、極限まで鍛えられた運動選手は多少調子悪くても素人より強いように、高水準のライヴであることは間違いなく、コウキのギターがどことなく津軽三味線を連想してしまう「BEYOND THE MOUNTAIN」の躍動感や「ARRIVAL TIME」「ANSWER FOR・・・」「TOKI NO KANE」の静と動の陰影を感じさせる曲は素晴らしい。また、披露された新曲は今までの延長線上からオーソドックスなハードコアパンク寄りのものであった。 この日のライヴはこのバンドの極限を歩むがゆえに、置かれてしまう微妙な位置を改めて思い知らされた。もちろんこのスリリングさを含めての魅力であり、その魅力を広めていくには、まだまだ彼らは成し遂げなければならないことがある。 セットリスト
ROOT OF TREE SHELTER 続いてSHELTERである。知らなかったバンドなんでとりあえずSmashのホームページ から引用。 「SHELTER... N.Y80年代伝説のストレート・エッジ・ハードコア・バンドのYOUTH OF TODAY のVo.とGがSHELLTER を結成。シェルターはクリシュナ教のメッセージを重んじ、音楽的にも幅広くなり、90年代を代表するのにふさわしいbandに成長。 98年に初来日、独自のライブパフォーマンスは見る物を熱くさせる」 ステージに現れたのは金髪のセクシーな女性ギタリスト、男前のちょっと大人しそうなギタリスト、入れ墨バッチシのベーシスト、Tシャツにジャージ、短髪で体操のお兄さんのような格好のヴォーカルとドラムの5人組である。彼らの音はこれがもっとポップになればグリーンデイかオフスプリングだなと感じる親しみやすいハードコアパンクである。リズムが固くて太い。この辺はアメリカ人ならではのパワーなのかも知れない。体操のお兄さんはステージで逆立ちしたり、フロアへダイヴしたりする。また飛び跳ねたり足を蹴り上げるのがめちくゃ高く、やはり体操のお兄さんだけあって日頃鍛えているのだと確信する。 日本語でアリガトを連発し、メンバー同士で写真を撮り合い、フライヤーをばらまくという陽気なステージは、彼らを知らない人達をも楽しませた。元来、パンクというのは攻撃的で不穏な音楽とされているが、今の日本のコア系(メロコア、スカコア)のシーンは明るくポジティヴであるバンドが多い。それをパンクでないと非難する向きもあるが、彼らが1977年のイギリスのパンクが持つヘイトやデストロイでなく、90年代のハードな状況を踏まえつつも明るくあろうとするアメリカに共感を覚えポジティブな姿勢をとることが、より切実だったと言える(まぁ、ブラフマンはかなり不穏な音楽でもあるので、簡単にジャンルで括れない。これが彼らの魅力であり、危うい所でもあるのだ)。そのようなアメリカから現在の日本へという流れを感じたライヴであった。 アンコールのラストはビートルズのカバー「We Can Work It Out/恋を抱しめよう」であった。トシロウも参加して大いに盛り上がった。最後はSHELTERのメンバーとブラフマンのメンバー全員がステージに上がり感謝の言葉を述べた。とりあえずの大団円である。観客に歩み寄ることなく孤高を貫くブラフマンと明るくサービス精神旺盛なSHELTERとの対比が興味深い一夜であった。 感謝します:マーブルリヴァー、サンダーバニー、ハルチン Reported by ノブユキ.
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