Ben Harper

Kiss 100 FM presents Ben Harper The shepherds Bush Empire Wednesday 11th June 1997

 おそらく、ボブ・マーリーがそのライヴの素晴らしさを世界に知らしめることになったのが、名作として知られる「ライヴ・アット・ライシアム」だろう。すでにこのアルバムが録音される前にボブ、バニー&ピーターの3人、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズはロンドンに来ていたし、好き者の間で定評となっていたのはそのライヴの素晴らしさ。が、それが決定的なものとして浮き上がり、世界的なブレイクを記録するには、その翌年まで待たなくてはいけなかった。いわば、そのきっかけとなったのがあのライヴ・アルバムだ。

Ben Harper photo 今回、4月のシドニー以来、(といっても、その時はシドニー到着が遅れ、アンコールを見たにすぎないのだが)2ヶ月ぶりのベン・ハーパーのライヴ(6月11日、ロンドンはシェファードブッシュ・エンパイア)で感じたのが、ボブ・マーリーのあのライヴ・アルバムに匹敵するインパクトだった。この日のステージからはとてつもないエネルギーがほとばしり、まるで世界的なブレイクを寸前にしたアーティストのドキュメンタリーでも見ているような感覚に陥る。そう、ベン・ハーパーがただのミュージシャンやアーティストを越えた、とんでもない段階に入っているのがひしひしと伝わってくるのだ。

 初めて彼のライヴを見たのは94年11月。ロンドンのポートベロにあるちっぽけなクラブ、サブタレニアだった。イギリスでの初公演ということもあり、会場のキャパは300人も入れば満杯になる程度。しかも、その会場でさえもすかすかの状態で始まったのが彼の演奏だ。ところが、ライヴが進行するに従って観客の熱気がぐつぐつと煮えたぎってくるのがわかる。そして、ライヴが終わる頃になると、全ての人たちが新しいカリスマの出現を確信するように、その興奮が沸点に達していたのだ。これは、セカンド・アルバムのライナーにも書いたのだが、友人の編集者、ポール・ブラッドショウ(ストレート・ノー・チェイサー)によると、「ベンはオブスキュアなピーター・トッシュ」であり、私に言わせれば、彼はボブ・マーリーに匹敵するかもしれない逸材だ。ブルースをベースにしながらも、ブルースの枠にとどまることはなく、ヒップホップからファンク、ジミ・ヘンドリックスあたりのヘヴィーなロックやボブ・マーリーに接点を感じるレゲエも顔を覗かせている。その全てがごったにになって、独特の世界を作っていると言えばいい。それを一瞬のうちに感じさせてしまうアーティストなのだ。

Ben Harper photo あれから、幾度、彼のライヴを見ただろうか。95年の夏だったか、エリザベス・ホールでグールー(Jazzmataz)の前座として登場した時のライヴも見ている。サウンド・チェックの時間も与えられることなく、前座に一塊のリスペクトも見せないグールーの前に登場し、観客はベン・ハーパーの存在すら知らなかったというのに、彼の短いショウが終わりかけた頃には全員が総立ちになってのスタンディング・オヴェイション。特に、軽く2000人は入るこのホールで彼がマイクを手放し、地声で歌いだしたときだ。静まり返った会場に響いていたのはどこまでも伝わる力強さを持ったベンの声。この時、誰もがこの新人に圧倒されたのを実感していたはずだ。

 そして、3月初旬のロンドンはジャズ・カフェでのライヴを経て、下旬には1年ぶりの日本公演。新しいドラマーがバンドに加わって2日目だったというのに、観客が「ベン・ハーパーって、すごいよねぇ」とライヴの感動を語り合いながら会場をあとにする姿が印象的だったのが初日だ。この日はもうひとつバンドとのコンビネーションがぎくしゃくしていたのだが、2日目には圧倒的な迫力で観客を完全にKOしているのだ。ギター1本で登場し、初っぱなに演奏されたのは、なんとマーヴィン・ゲイの「セクシャル・ヒーリング」。前日とは全く違った構成だ。なんでも前日の問題をメンバー全員で話し合い、入念なリハーサルをしてこのライヴにのぞんだと言うのだ。そんな彼らの気持ちが演奏に反映されたのだろう。それまでに何度も彼のライヴを見てきたが、これほどまで圧倒的なパワーを感じさせたことはなかった。おそらく、あれが私にとってベンの最高のライヴ。それ以上は望めないような気もしていたものだ。

 が、それさえをも軽く上回っていたのが6月11日のエンパイアでのライヴだ。ちょっと時間に遅れて会場に到着したせいで見逃したのが最初の曲。加えて、フォト・ピットでの写真撮影のために最初は曲目もチェックする余裕はなかったのだが、撮影が終わってアリーナに出ていったとき、目の当たりにしたのは、前述の「ボブ・マーリー・アット・ライシアム」に記録されているような観客の熱気だった。お馴染みの「プレッシャー」あたりから聴衆の歌声が始まり、それが徐々に大きくなっいく。そう、ベンと観客が見事にひとつになっているのがわかるのだ。こんなライヴに出会ったのはレヴェラーズ以来じゃないだろか。そして、そんなスローな曲に続いてハードな「Ground on down」に入ると、フロントのオーディエンスが飛び跳ね始め、そこに続くのは日本のライヴでも演奏してくれたジミ・ヘンドリックスの名曲「ヴードゥ・チャイル」。ベンがワイルドなギタリストとしての本領を発揮してくれたこの曲から、新しい3枚目のアルバムのタイトル・トラックとなった「will to live」でステージの幕が下りるのだ。

Ben Harper photo が、もちろん、それで観客が満足できるわけがない。まるで怒涛のように手を叩き、足を踏みならすオーディエンスで騒然となったとき、ギター1本でベンが登場。静かに、が、力強く「パワー・オヴ・ゴスペル」を歌い、胸を締め付けるようなラヴ・ソング「バイ・マイ・サイド」へとつながっていく。そして、2度目のアンコールはロドニー・キング、マーティン・ルーサー・キングの名前が出てくる名曲「キング」で始まり、誰をも圧巻してしまったのが最後の曲「ライズ」(正確な曲名は覚えてはいない)。曲の途中でバックの演奏が消え、聞こえてくるのは立ち上がったベンのヴォーカルだけ。が、熱気を沸騰させながら反応していた観客が物音ひとつさせないでそれを聞いているのだ。ベンはマイクを離し、地声で歌い出す。不思議な光景だ。誰もが興奮し、感動し、熱くなっているというのに、会場で聞こえるのはベンの声のみ。爆発させたいほどの熱気を身体中に感じながら、観客がその目や耳や身体の全てをベンに向けているわかるのだ。が、幾度も幾度も「僕はまた立ち上がる」と繰り返され始めると、じわじわとオーディエンスが歌い始め、大合唱となっていく。その時のオーディエンスの歌声や拍手喝采が、新たなカリスマの出現へのセレヴレイションのようにも聞こえたものだ。

Ben Harper photo すでにフランスやオーストラリアでは圧倒的な強さを見せつけているのがベン・ハーパー。もちろん、彼を短絡的にボブ・マーリーに比較するのは間違っている。が、ボブが一度もヒットチャートのトップを飾ることなく、世界中から支持されるようになったように、LAベースのこのアーティストが同じような道程を歩むような気がしてならないのだ。

 ちなみに、ベン・ハーパーはこの8月にプロモーション来日を果たすはずだ。彼の話によると、その時、どこか小さな会場でプレス向けにライヴをやる可能性があるそうだ。好き者のファンはそのあたりの情報をチェックしてみたらいいかもしれない。



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