シオンと松田文 @ 札幌アイビック(19th May. '06)
オヤジになりたかった夜
そこに立ってるだけでかっこよすぎる45歳を見て、この夜私は涙目になっていた。周りにいる彼の年代に近い人たちは、熱のこもったまなざしで彼を見つめていた。
少し肩をすくめてマイクに手をかけ、背中を丸め、ゆっくりとあたたかい息を吐き出すように歌いだす。音楽に興味を持ち始めたばかりの頃は、少ないお小遣いではシングルを買うのがやっとだった。ビデオなんて、ましてやライブなんて手が届くはずもなかったそんな頃に、頭の中で一生懸命思い描いていた生のミュージシャンの姿を、やっと見ることができたかのように胸がドキドキした。
札幌でアコースティックライブをするのは実に10年ぶりだと言う。シオンの歌声の力強さもいいけど、アコースティックだと、力強さの後、波が砂と一緒に引いてくような余韻が感じられて、もっといい。彼のふところの深い歌声を聴いてしまったら、透き通るような声や弾むような美しい声じゃ、上澄みを飲んでるみたいで物足りなくなってくる。溜まってるオリもまんべんなくかき混ぜたような、良かったり悪かったりを重ねた年月が、丸ごと入ってる彼の歌声を聴いていたら、「この人、一体どんな人生送ってきたんだろう」と考えてしまった。 そんな渋さだらけのシオンはたまに、嬉しそうに照れくさそうに、子供みたいに笑う。きっとそのギャップに惚れちゃってるおネエちゃん、いっぱいいるんだろうな。隣に座ってた女性もそのうちの一人みたい。カッコイイオジサンというのは、カッコイイ若者よりも何十倍も得だな。
シオンの言葉ひとつひとつに、過去・現在の自分が重なり合って、きっとそれぞれに「自分の歌」があるのだろうなと、30代そこそこの私よりもひとつ上の世代の方々の背中を見ていて思った。若輩者がこんなこと言うと怒られてしまいそうだけど。たしかに私も、友達と二人で少し背伸びしてシオンを聴いていた十数年前のあの頃より幾分年をとったせいなのか、今夜は沁みて沁みて仕方がない歌があった。「自分、こんなんじゃダメだけど、こんなんでもいいのかも知れんな」と、誰にかけられるどんな言葉よりもなぐさめられてしまった。でも、なぐさめられたり励まされたりすると、逆にもっと切なくなっちゃうこともあるもんで、ふいにつつーっと涙が流れたけど。
人生の経験値が上がってシオンの歌にどんどん追いついて、年々泣く回数が多くなったりするのもいいものかもしれない。若い子に「シオンてそんなにいいんスか?」と訊かれて、「きみたちにはまだわからないだろうよ。」と、ちょっと意地悪を言いたくなるあたり、まだまだそうなるのは先の話かもしれないな。
なんだか今夜は「オヤジになりたい」と思った夜だった。
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