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CD『ジ・イレイザー』
トム・ヨーク
「オックスフォードシャーからお越しのトム・ヨークさんです、はりきってどうぞ〜!」、とレディオヘッドのフロントマンのソロ名義初作品を紹介するにあたって、あえて町内会のど自慢の司会者のように陽気に切り出したい。寡作な本家の新作リリースを歯痒い思いで待っている人達にしてみれば、どうしたって、あのレディオヘッドの外伝的な見方でこの作品に抱く期待と不安は隠せないのだと思う。けれどもそこをあえて諸々の情報を一旦白紙にし、これはあくまでトム・ヨークという一人のミュージシャンの出した一枚のアルバムという風に気持ちを切り替えて耳を傾けると、あら不思議。ピコピコ、ドムドムと打ち込みエレクトロニカ・サウンドで構築された幾何学的な世界を、本人ですらも時々わけわからなくなっているとおぼしき、自身の複雑な脳内パズルで組み立てられた言葉に乗せて、奇をてらうでもなく、無理に良いメロディを出してこようというのでもなく、ただただ自由に好きに音を紡いでいる。
基本はエレクトロニカ、やんわりテクノにも食指を動かした無機質な音の集合体が曲の外角だとすれば、内側にあるのはそれに対比し、有機体に満ちた、美しく、もの哀しいメロディ。とにかく彼の「声」、この何ともいえない繊細で危うげな唯一無二の歌声による事も大きいが、今作での彼の歌唱法はその従来の繊細さが影を潜め、曲を構成する楽器の一部として淡々と機能している感がある。そんな抑揚を抑えた彼の声も楽曲の雰囲気に合い、また面白く聴こえるのだ。だから時折ヨーデルみたいに彼の声がひっくり返ってもさほどハラハラはしない。冒頭の浮遊感漂う"ジ・イレイザー"など湿った感のピアノに絡まるリリカルなメロディ。だが「答えが分かっているのにどうして尋ねたりするんだ/俺はただ良い奴でいようとしているだけなんだ」「君が俺を消そうとすればするほど俺はまた現れる」しまいには「君は間違っている」と言われたらもう、トム・ヨーク語録の迷宮入りで何のことか分からない。決して千歳飴の事を指しているわけではないのは確かだが。"ザ・クロック"では「僕らのために君は希望という名の泉にコインを投げる/未だに何かが返ってくるという振りをして」とシニカルに批判の刃をかざし、嘆くようにハミングが広がる。よじれ気味に出される高音に一瞬はっとさせられる"アンド・イット・レインド・オール・ナイト"、"シンバル・ラッシュ"はまさにコンピューター・ミュージック。もういいっつのってなぐらいピッピコ、ピッピコ、ポムポムと機械的にビートが刻まれる様はバンド・サウンドが奏でるヴァイブとは全く趣を異にして、終盤はトランスに近い高揚感をもたらす。
何でもこの作品のモティーフは、彼自身にアイディアが浮かぶごとにその断片を自分のラップ・トップにこし溜めていたらしい。それらがバンド向きでない事を自覚していて、自分の現在の趣向にもっと近いエレクトロ・サウンドを軸にした作品として形にしたかったのだという。「君は遠くまで旅をして何を見つけたの/分析する時間なんて無いんだよ/理に叶うように物事を良く考えるんだ」と"アナライズ"でトムは歌う。仰る通り、分析しようにも一筋縄ではいかない複雑怪奇なトム・ヨーク。苦悩する詩人はそれでも要塞に閉じこもるのではなく、こうして現在の自分を電子音に乗せて伝えてきた。ミュージシャンならではのセルフ・ポートレイトだ。
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ジ・イレイザー
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kaori
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