Patti Smith @ 赤坂ブリッツ (7/17)

 彼女にはいつも驚かされ通しだった。
 初めての出会いはロバート・メイプルソープの作品。ロフトの窓辺に裸身を折り畳 むように置き、顔だけをこちらに向けた静謐なポートレート。若き日の媚びない美し さに惹かれてアルバムを聴いてみれば、信じられないドスの利いた低い声、そしてデ ィープな詞の世界。ショックで少しの間再びその音を耳に出来なかった。
 しっかりと見据えられるようになり今回の最終公演へ。オープニングアクトJUDEで 既にやられたって気分。それを堪能し、彼女のステージへ。
 苗場でのそれしか知らないわたしはまた意表を突かれる。もうこの人ってとっくに 性別を超えた生き物のような気がしていた。
 撤回。
 パティ・スミス、あなたは女性として美しい。
 露出の高い衣装に、時にキュートで時にメッセージ性の強いVJ。フロントに立つ彼 女の顔は衰えを化粧でカバーされる事もなく、かつてなら谷間がくっきり有ったろう 深く開いた胸元は平たく、二の腕にも腿にも肉が下がる。
 それでも老醜という表現はまるで当て嵌まらない。今迄はスターとしての風格、と 思っていたがそれも違う。パティは自分が一流の表現者で、オーディエンスを啓蒙す る力を持っている事を知っている。同時に自らも「ピープル」の一人であると分かっ ているのではないかと今回思った。だからこそ「ピープル」の力を信じる。
 「ダンシング・ベアフット」を生で観る度にゾクゾクする。歌中の「she」は永久 に若い。その「she」について正確に語れるのはそういった時代を経た一人の女であ るパティ・スミスだけ。
 苗場では決して観られないステージを体感した。パフォーマンスのエネルギーはや はり凄い。しかし素に戻れば気さくでキュート。
 わたしの言葉に耳を傾けなさい
 それはあくまで表現者の態度。多くの人々に自分の世界を伝えられる様闘ってきもし たが、スターの名声や期待に潰されず、一人の人間として今も在る彼女。
 メイプルソープの世界の美しい肌と肢体を持つ彼女はもうここには居ない。
 けれどがっかりする事などない。彼女は言葉を研ぎ、時にわたし達と同じように様々 な物にぶつかりながらも人として女として歩み、世界を産み続ける。
report by
伊藤千尋
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