MANITOBA @ 100club, London (3/25)

 まるで低予算で作られたフレーミング リップスのステージみたいだ、と思った。今夜のステージにマニトバとして登場したのは、赤い頭巾にヘッドフォンを装着し、そして鼠にも熊にも見える奇怪なマスクを顔に被った、三人の男性だ。その後ろに設置された中型スクリーンでは、犬の耳を持った人形と強度に興奮した様子のテディベアが、サッカーボールほどの大きさのラジウム原子を投げあいながら、狂気染みた笑顔を浮かべている。
 今までに、カナダ出身の数学士ダン スナイスがマニトバとして行ってきたライブは、彼自身とラップトップ、そして二つのターンテーブルで構成されていた。しかし今、スナイスの視点は、より大きなものへと向けられている。最近に発買されたニューアルバム 「 Up The Flames 」は、前回のデビュー作品よりも更にカラフルな音楽性を見せ、今やスナイスの名は、イギリス音楽業界に広く認知されるようになった。そして今夜、この会場を埋める以前よりも幅広い観客の多くは、このアルバムに感銘された人々である。
 生楽器の音色と機械処理が施されたサウンドが、難解複雑に幾層にも織り込まれた「Up The Flames 」の収録曲は、ライブ演奏で再現するには不可能に見えた。これに挑戦しようという、スナイスのパフォーマーとしての決心は立派だと言えるだろう。新編成のマニトバになってからまだニ度目のステージの今夜、曲間の乱取りなどに不馴れが見られるところもあったが、二人のドラマーが叩き出す大きなリズム、美しい音調が繰り成す好戦、常にスワップされ続ける多種類の楽器、サンプリングされたボーカル、DVDで流されるアニメーション、そして初めて聞く類いのテクノロジーが一体となって成すステージは、新鮮な驚きと共に、そのチャレンジ精神に感心まで覚えさせた。ライブ演奏では伝わりにくいと思われる微妙なニュアンスは、分かりやすいようにと容赦なく増幅されている。また遊び心に溢れた適度なはしゃぎ感が、セイント エティエンヌのような可愛らしさをもった 「 Crayon 」や、ベータ バンドのベータ粒子だけを大きな塊にしたような 「 Bijoux 」といった曲を、ライブならではの偶然性と楽しさに満ちたヴァージョンとして観客に届けた。
「あとニ、三ヶ月もすれば、マニトバのショーは完成度を増し、仰天するようなものになるだろう」。今夜のステージを暖かく受け入れつつも、観客の中には、このような思いが無言の一致で流れてたようだ。しかしマニトバと同じように揮発性を持ったマジカルな音楽を作っていたマイ ブラッディ バレンタインも、それをステ−ジ上で完全に再現してみせる事は殆どなかったということを、忘れてはいけないだろう。そしてそうは言ったが、マニトバは今夜のショーの最後には、その仰天レベルに限り無く接近してみせた。幾層にも分けられた音の支流が、次第にスピンしながら主流へと溶け込む「Everytime She Turns Round It`s Her Birthday 」で、自由に滑走するスナイスのギターのブレイク ビートは、二人のドラマーから叩き出される勢力を総括し、異常なスリル感を引き起こしのだ。
 一時間十五分に渡ってマニトバに感覚のマッサージを受けた観客の顔には、アニメ映像のテディ ベアと同じような、狂気染みた笑顔が浮んでいた。新生マニトバの発射地点は、ほぼ完成している。そしてその飛行距離は、スナイスが思っているよりも長いかもしれない。
report by
ナオコ
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