連載リレー・コラム : これを聞かずに、死ねるか!
第1回 私には歌えません : ミシシッピー・ジョン・ハートの『ラスト・セッションズ』を語る (31st May '05 )
くるくる回るお皿を斜め上から見ながら、曲頭に針を落とす。でもって、ギターを構えて、音を聞きながら、独特のギター・スタイルをコピーするんだが、これが難しい。それに面倒だ。今なら、ポイントを決めてCDをリピートさせれば済むんだが、30数年前といったら、これしか方法はなかった。
そうやって何度も何度も聞いたのが『The Immortal(不滅のミシシッピー・ジョン・ハート)』という輸入盤だった。といっても、実際にアルバムを手にするのは初めて聞いてから数年後で、まだステレオなんて持っていなかった頃に聞いていたのはカセット・テープ。今じゃ信じられないだろうが、中学生の頃に高石友也というフォーク・シンガーがやっていた深夜放送で初めて耳にして、あまりの素晴らしさに、放送中に局へ電話。「カセット・テープを送るからなんとかダビングしてくれないか」と頼み込んで手に入れたものだった。(ありがとう、あの時そうしてくれたのが誰かは全然わからないけど、そのおかげで、人生が変わりました。今だったら、そんなこと、ありえません。)
あまり期待されても困るけど、このアルバムに刻み込まれているのはジョン・ハートという老人の声と彼の生ギターだけ。基本的には親指でベースを弾きながら、人差し指と中指を使って高音部の弦をつま弾きながら演奏するスリー・フィンガーのスタイルで、一般的なブルースってよりもフォークっぽい響きを持っているのが彼の音楽。ありきたりなかっこよさとは全く無縁で、ロックやテクノを聴いている人には退屈かもしれないほどの、木訥とした語りのように聞こえても仕方がない音楽だ。
でも、彼の声に泣かされるのだ。まるで無垢な子供に聞かせるようでいて、実は、そうでもない。アルバムから聞こえるのは酸いも甘いも噛み分けた、優しさいっぱいの声。しかも、彼がこの世とおさらばする少し前に録音されたこの『ラスト・セッションズ』では、彼のため息や息づかいまでもが聞こえてきて、めろめろになったのを覚えている。
1927年にデビューして、世界恐慌の時代に消え去ってしまった伝説のブルース・アーティスト。極貧の状態で再発見されたのはリバイバルが起きた1963年で、そのわずか3年後に他界してしまうのだが、彼を溺愛するミュージシャンも多い。日本では高田渡や加川良がこのスタイルをいただいているし、いつかベン・ハーパーと話したときも、「実は、俺のヒーローはミシシッピー・ジョン・ハートなんだ」と意気投合したことがある。この"Last Sessions"はその最後のアルバム。息づかいまでもが心を癒してくれる傑作中の傑作だ。
実をいえば、なんとか彼のギターはある程度コピーできたんだが、なにもかもを超越した人間の優しさを抱えたあの声を出すのは絶対に無理だと思って、歌うのをあきらめることになった。そんなアーティスト。あるインタヴューによると、ベン・ハーパーもジョン・ハートを聞いて、同じような気持ちになったということを口にしていたのが面白い。
report by hanasan
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