buttonSandra Cross meets Alan Weekes
The New Sound Of Jazz Reggae Is Born!
(1998年4月)
Sandra Cross  ジャマイカ音楽のルーツは多分にジャズであった... そんな発想で活動するのが英国最強のジャマイカ人ミュージシャンを集めたJazz Jamaicaだ。彼らの場合は、レゲエのルーツ、スカをよりヴィヴィッドに演奏するという姿勢を持っているのだが、その中核となるメンバー、ギタリストのアラン・ウィークスとドラマー、ケンリック・ロウが「ジャズ・ジャマイカも、当然興奮するけど、今回のこのプロジェクトはそれの比じゃないよ」と口にしているのがサンドラ・クロスをヴォーカリストに起用したジャズ・レゲエだ。

 前作「Just A Dream」が録音されたのは96年7月から8月。といっても、この時点でジャズとレゲエを融合するというプロジェクトは存在しなかった。おそらく、最も近いものがあるとすれば、それはJazz Jamaicaが94年と95年に発表した「ザ・ジャマイカン・ビート」というプロジェクト・アルバムだろう。その2枚のアルバムで彼らが試みたのはジャズの名曲をジャマイカ音楽に料理するというものだった。

Jazz Jamaica が、あくまでインストゥルメンタルを中心に構成されていたのだこの2枚のアルバム。確かにヴォーカル・ナンバーはあったのだが、それよりもダイナミックなジャマイカ音楽のインストゥルメンタル的な展開が中心にあった。加えて、ジャズよりもスカ、レゲエといったジャマイカ音楽的なサウンドが主流を占めていたのだ。

 が、サンドラを中心としたこのプロジェクトはあくまでヴォーカルが中心であり、それゆえによりジャズ的なアプローチを必要とされる。加えて、単に名曲をジャマイカ音楽風に料理するというだけではなく、ジャズとレゲエを微妙にブレンドしなければいけないのだ。
sandra その初めての試みに、さまざまな方法論を駆使して、試行錯誤したというのが前作「Just A Dream」だ。新しいドラムスのパターンを探し出し、タッチの違いを理解する... いわば、実験の連続だったといえばいい。アコースティックな楽器を中心に演奏していても、実験的にオルガンの音を入れてみたり、コーラスを入れてみたり... が、いずれにせよ、そんな作業を経て、暗闇のなかに鈍く輝く光を見つけだしたのがあの作品。それが彼らに自信を与え、とりあえずはジャズ・レゲエと呼べるサウンドを作り出したというのが本当のところだ。

 が、それから数ヶ月後、彼らはアコースティックな楽器にシンセサイザーを加えるというスタイルで日本をツアー。おそらく、そのころには理想的なジャズ・レゲエのサウンドが明確な形として浮き上がっていたのだろう。今回のアルバムでは前回ほどの実験を繰り返すことなく、録音前から明確なヴィジョンを確立し、それにそって録音がなされたというのが正しい。

Sandra Cross 録音が行われたのは、ロンドンはオールド・ストリード駅のそばにあるベアフット・スタジオ。まずは日本側とサウンド・プロデューサーのアラン・ウィークスが一緒になって大まかな選曲をやって、カリブ海はバルバドスに住むサンドラとメールなどで最終的な曲目を決定している。その選曲リストをベースにアランがラフなアレンジをやって、今回の録音に参加するミュージシャンたちとリハーサル・ルームでそのサウンドの枠組みを決めていいくのだ。サンドラがロンドンに入ったのは3月24日。そして、そこからサウンドのつめをするという具合だ。
 といっても、それで終わったわけではなく、スタジオに入っても、幾度か録音して、それを自らの耳で聞き、修正をしていくのだが、なによりも前回と違うのは、サウンドの輪郭が明瞭に見えていたということだろう。楽器の構成もはっきりと決められていた。今回、アルバムの半分で起用されたエレクトリック・ベースを除けば、全てアコースティックな楽器で構成されている。さらに、あくまで生のグルーヴを打ち出すために、録音は生で行われているのだ。時間的に都合のつかないリード楽器をはあとでオーヴァーダブという形で録音され、サウンド・プロダクションに集中しなければいけなかったアランがギターをあとで加えるという形になったのだが、その他はあくまでメンバー全員(ベース、ドラムス、ピアノ、ヴォーカル)が「いち、に、さん...」という風にカウントをして、一緒にレコーディングをしているのだ。もちろん、数テイクを取るのだが、なかにはワン・テイクで決まってしまったものもあるほど。あくまでジャズ的なライヴのダイナミズムが今回のアルバムで強調されているのはそれが理由だろう。

Sandra Cross 簡単にできる曲もあれば、できない曲もあった。難しかったのが、サンドラ・クロスがかつてマッド・プロフェッサーの下で録音していた代表曲の再録音だ。実をいえば、レコーディングが始まる前、「これは、やっぱり無理だよ。難しすぎる...」と弱音を吐いていたのがアラン。ところが、リハーサルを繰り返し、スタジオでセッションを繰り返す後に、あるべきスタイルが打ち出されてきたのだから、面白い。また、カリブ海の音楽の流れを描くために選曲されたボサノヴァの名曲のジャズ・レゲエ化も簡単ではなかった。いずれもリズムが命の音楽だ。その両者を全て融合しなければいけないのだ。あまりにブラジル的でも問題はあるし、あまりにレゲエであってもいけない。そこにジャズ的要素を加えなければいけないのだ。が、それが見事なほど完璧に融合されたというのが今回の作品だ。
 その成功の裏で最も注目されるべきなのは、サンドラの成長だろう。「私はジャズ・シンガーになんてなりたくもないわ」といっておきながら、ニーナ・シモンの曲をカヴァーした「My Baby Just Cares For Me」をやったときには、低く押さえた絶妙のヴォーカル、しかも絶妙にスイングするヴォーカルでスタジオにいたミュージシャンをKOし、マーヴィン・ゲイで有名な「I Want You」では緩やかな流れに乗ったアドリブで聴くものを圧倒。さらには、アストラッド・ジルベルトの名曲「おいしい水」でのスキャッティングも「なんでそんな技を隠していたんだよぉ」と思わせる華麗なスタイルを... アドリブで形にしてしまうのだ。
「あれで、ジャズ・ヴォーカルなんて勉強したこともないってんだから... たまらんよ。おかげで独特の歌唱法を作り上げてしまったんだから。こりゃ、恐ろしいよ、彼女が本気になってジャズのスタイルを勉強したら、とんでもないシンガーになっちゃうよ」
 と、そう口にしたのがアラン。今回のアルバムに関する限り、サンドラのヴォーカル・スタイルは、明らかにこれまでのベストなのだ。

Sandra Cross そんな全体の出来を直感することができたのがリード楽器でソロを入れることになった数々のミュージシャンたち。「わかるわかる! このサウンドだったら、しっとりと語りかけるようなソロじゃなけりゃ」といったのは、ブラン・ニューヘヴィーズからジャズ・ジャマイカ、さらにはブラーとも演奏を続けているトロンボーン奏者、デニス・ロリンズ。「本当は、ジャズ・ジャマイカが目指すべきはこういった方向性だったと思うよ」という彼がシンプルながらも歌心満点のソロを録音。また、ジャズ・ファンなら、卒倒しそうなほどディープで枯れたサックスを加えたのが、かつてポール・サイモンともtua- したことのあるテナー奏者、マイケル・バミー・ローズ。また、インコグニートのオリジナル・メンバーとしてUKジャズからドラムンベースの世界で脚光を浴びるレイ・カーレスも非の打ち所のないソロをわずか5分弱のワン・テイクで決めるなど、このプロジェクトに巻き込まれた全てのミュージシャンたちが納得できたのがこのレコーディングだった。

Sandra Cross 「今までで最高の声で歌えて、これまでの長いアーティスト人生で初めて創造的なアルバム制作ができて... だって、途中に苦しくて、逃げ出したいと思ったことがあったほどなんだもの。(笑)それに、ビジュアル的にも最高の写真を撮影することができた... もし、これでこのアルバムが評価されなかったら、私、歌うのをやめようかと思うの」
 実は、アルバムの録音が終わり、フォト・セッションも終わって、こう口にしたのがサンドラ。そんな夢を形にしたということで、このアルバムには「Dreams Come True...」と名付けられている。それほどのことを言わしめたアルバムがどれほどの出来上がりなのか容易に想像できるというものだ。

 前作よりもよりりジャズ的に、同時に、よりレゲエ的に作られたのがこのアルバム。思うに、ここでジャズ・レゲエという新しいジャンルの音楽が確立されたといっても過言ではないだろう。そのベールが脱がされるのが6月24日。ただのレゲエ・ファンだけではなく、ジャズ・ファンも、そして、ポップスのファンにも聴いてもらいたい作品だ。おそらく、これはレゲエ界に、そして、ジャズ界にちょっとした衝撃をもたらすことになると思うのだが....

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