バスク・レポート (9th to 21st Jan '08)
イノレ・ネロ・ニ、ヴィクティム・カオス @ ガステッツァ、ザラウツ(12th Jan'08)
ガステッツァと共に
製糸工場の廃墟に手を入れた、ザラウツのガステッツァへとやってきた。犬が尾をふりながら勝手に遊び、ずいぶんと和やかな雰囲気が漂っているが、壁には新幹線建設に反対したり、ビニール袋を使った「最も簡単な」殺しの場面などが描かれたりと、かなり激しい批判が塗りたくられている。他の場所に比べ、断トツに毒々しい色使いが印象的。廃工場というだけあって、天井が高く、だだっ広い。
この日はベリ・チャラックの日に比べてオーディエンスの年齢層が高め。バスクのアーティストはライブとレコーディングをきっちり分けて、アルバム発表の時期にライブをぶつけてくる傾向があるため、バンドによっては同窓会のような状況ができあがる。この日もそうだった。日本から遠く離れたバスクまで来て、レコーディングだなんだかんだで生活のリズムを掴むのは大変だったろうが、ヴィクテム・カオスのコンディションは絶好調。時差ボケもとうに抜け、自分達の倍は生きていそうな大人たちを前にしても、気持ちはまったく萎縮せず。形を気にしてうまく立ち回るかどうかではなく、等身大をぶつけることで強く、太くなろうと奮闘していた。
この日の対バンはイノレ・ネロ・ニ。いくらか変わった響きだが、結成は84年とかなりのベテラン。スペルを見れば「INOREN ERO NI」という回文になっていて、要するに、上から読んでも下から読んでも同じということ。結成当時は「B.A.P.!」(Brigada Anti Policial =反警察旅団)の名前で活動し、ネグ・ゴリアックへの参加からフェルミンと行動を共にするようになったピンツァと、その兄貴が中心となって結成されたハードコア・バンドだった。スコーピオンズ、ステイタス・クォ、ディープ・パープルといった大物がまるごとバスクでライブを行った際に、地元代表として対バンしたこともあるそうだ。迎え撃つのがラディカルなハードコアというので、ずいぶんと食い合わせが悪いけれど、大衆迎合的なバンドが見つからないバスクのシーンを端的に表していると言ってもいいのではないだろうか。
ドラムスのピンツァはフェルミン・ムグルザ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイドの時とは全く違う押さえたドラミングで土台を固め、ポーカーフェイスのギター、マリアーノが足元のエフェクターをいじくり倒す。すべてをなぎ倒すハードコアを消化して、サンプリングやエフェクトを盛り込んだ実験的な音は目まぐるしく展開していく。ヴォーカルのオケネは、その音の中で泳ぎ、暴れ、溺れるかのようパフォーマンスを繰り広げる。時には身もだえしながら、歳を感じさせない激しい動きとシャウトを矢継ぎ早に繰り出し、前衛舞踏家のように振る舞うのだ。バンドのライブというよりは、アートのような印象。パンクからニューウェーヴに移り変わる過程を追体験させてくれるようでいて、単にアイディアにテクノロジーが追いついたというものではなく、エフェクトのひとつをとっても、それがまるでうめき声のように聞こえる。言葉はわからなくとも、壁に書かれた主張がステージ上の四人から煙っている気がするのだ。
楽器隊はダモ鈴木との共演などを経て、言葉を超えた深い沼のような像を生み出す技を得たのだろう。つかみどころはないが、勢いで突っ切るだけではない、大人にしかできない攻めから生まれくるデカダンな世界は広がり続け、いつのまにかオーディエンスは飲まれている。毒をもって毒を制す強烈なアンチは、ガステッツァに殴り書きされた主張と溶け合っていったのだった。
この日、ここには3人のネグ・ゴリアック(Vo.フェルミン、Dr.ピンツァ、B.アネステシア)が集まっていた。ライブ後、つもる話もなんとやらで、それぞれが「そろそろ帰ろうかな」などと言いつつも、なかなか足を踏み出さない。そこにまた、彼らに憧れるオーディエンスが寄り集まっていく、誰かが帰路につくまで、和やかな輪は絶えなかった。 |
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