buttonバスク・レポート (9th to 21st Jan '08)

-ガステッツァ(gaztetxea)-
不法占拠というより秘密基地
basque
 先が矢印となったNの文字が○をつらぬくデザインこそ、ヨーロッパに点在する不法占拠から始まった集会所の目印だ。さらに鍵のようなデザインに発展しているものもあり、扉を開く=小さなコミュニティから世界を切り開くという意味が伝わってくる。

 ガステッツァという文化発信基地へ到着すると、まず書きなぐられたメッセージやグラフィティが視界に飛び込んでくる。もちろん、のっけから圧倒されるのだけれど、日本のような暴走族の縄張り意識の類いではなく、あくまでも主張を刻んでいるという感じで、さてさて中はどうなっているのかね、と先を想像してワクワクしてしまう。そして、中に入るとまた驚くことになる。

gaztetxea 地元の人たちにしてみても、見慣れない東洋人の集団が秘密基地に来たこと自体に驚くようである。こちらがスペイン語ではなくエウスカラ(バスク語)の単語を交えて積極的に話すことによって、壁など無くなってしまう。もちろん、たかが数日、様々なガステッツァを回っただけで全てを理解したとは思わないけれど、本物の不良に混じって飲み食いしたり騒ぐことで、バスクの民が言わんとしていることを肌で感じるようになってしまう。

 12、3歳の子供の手元を見れば、酒やタバコといった大人の嗜好品がくっついて、その味を覚える第一歩として機能していることも明らかだ。こう記すと、日本では誰もが眉間に皺を寄せるだろう。さらにガステッツァを単に直訳して「不法占拠」という単語でくくられるとなれば、なおさら敬遠するだろう。確かに、汚ったならしくて、どんなに腹が痛かろうともトイレなど御免だね! という環境ではある。が、観光地を巡り、お金を無計画にバラまくより全然面白いものごとが転がっている。人との距離が近い、そこに尽きるだろう。

gaztetxea 落書きや作品にはそれぞれの政治的メッセージが散りばめられていて、真剣に眺めることもある。と同時に、何故かしら心が弾んでしまうのは、先に述べた人との距離に加えて秘密基地のような雰囲気もあるからだろう。元々、忘れ去られた土地とうわものだけがあり、そこに熱意の塊のような人々が目をつけ、オブジェを造り、ペンキも塗りたくり、雑多な飾り付けをした。色の調和も無視して、それぞれの名もなきアーティストがところかまわず好き勝手に作品を残している。ひとくくりに「名もなき」と言ってしまったものの、北京オリンピックのデザイナーとして招聘された人物(噂によると、フジ・ロック@グリーンステージでアーティストからマイクを奪い取って歌った人物らしい)が帰省ついでに顔をみせていたことからも、実際にここから巣立って行った人もいるのである。様々な個性が前面に出て、混じりあわない作品が毒々しい色の氾濫と棘をもったスローガンを生み出しているけれども、主張の集合を俯瞰でとらえてみれば、足元から生まれる文化そのものがまるで命を与えられ、うごめいているように感じる。

 子供から若者を中心として、白髪まじりのいい大人までもが集うその場所は独特な香りを伴って、バスク人としての誇りや主張が雑なペイントとなって目に飛び込んでくる。スペースに余裕があれば、どこのガステッツァでもバスクにまつわる様々な文献を集めては図書館を作り、知っておくべきことを教えてくれる場所として存在している。

gaztetxea 例えば、スペインやフランスで政治犯として拘留されている者を顔写真入りで羅列したポスターに、それと同義の、イントロでも記したが、2007年のフジ・ロック、フェルミン・ムグルザ・アフロ・バスク・ファイア・ブリゲイドのDJブース前にも掲げられていた、黒い土地と赤い矢印の旗もガステッチェには必ずある。(黒い土地はバスクの領地、赤い矢印は人の帰還を示している)また、高速鉄道(日本で言えば新幹線になる)の建設には駅と駅の間の土地で生活する人々に不利益だけをもたらすとして反対し、核に対して「ez eskerik asko!」(ezは「ノー」、eskerik askoは「ありがとう」)とイラスト入りで主張している。これらはTGVの建設や世界一の原発依存国であるフランスと隣り合わせであることと無関係ではないと思う。そして、フランコ政権とナチズム、ファシズムの連携に対して掲げられた、アンチ・ファシスト・アクションと書かれたイタリアの旗もある。戦争を身近に感じられない日本がかつて軍国主義に走り、ナチスやファシストと組んでいたのだと思うと、他人事では済まされないのだ。

gaztetxea 今回訪れたのは、アンドアイン、ザラウツ、トロサ、そしてナヴァラ自治州のエステージャという土地のガステッツァ。アンドアインはおそらく元々会社であったと思われる廃屋で、ザラウツは製糸工場、トロサは消防署移転に伴って生まれた廃墟、エステージャにいたっては、木々に囲まれた斜面にたたずむ一軒家をD.I.Y精神でまるごと包み込み、再生させてある。ザラウツでは、まさに拾ってきた角材やコンパネ、スクラップでスケート・ランプ(スケボーのハーフ・パイプ)にボルダリングの施設(登れるように石を打ちつけた壁)を作っている最中だったし、トロサのガステッツァは「ボンベレネア」という特別な呼び名を与えられ、一目置かれる存在となっている。ステージ、スケート・ランプ、ボルダリングの壁、海賊ラジオ局、スタジオ、作業所、庭、プール、ミニ・シアター兼会議室、ゲスト・ルームと備え付けの宿泊施設(他のところはマットレスが用意されている程度)、さらに最新の林檎が二台置かれたインターネット・ルーム……と、ホテル探しや観光地巡りがバカバカしくなるくらいに充実しているのである。

「ボールさえあればどこでも遊べる」というのはサッカー先進国でよく聞く言葉だが、ボンベレネアのような場所があったらボールもいらず、手ぶらで一日遊べてしまう。警察もいない(介入は許されない)口うるさい親もいない、となると、それなりの歳を迎えた頃には自然に足を向ける場所になってしまうのも頷けるのだ。
bomberenea(gaztetxea)

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