グラストンバリー・フェスティヴァル @ ワージー・ファーム、ピルトン、サマーセット (22nd - 24th Jun. '07)
ヒロミズ・ソニック・ブルーム @ ジャズ・ワールド・ステージ (23rd Jun. '07)
ピアノがグラストンバリーの時間を刻む
『TIME CONTROL』
これは上原ひろみの新プロジェクト、ヒロミズ・ソニック・ブルームが今年の2月に発表したアルバムのタイトルである。アルバムタイトルだけでなく、そこに収録されている楽曲にも"Time Difference"、"Time Out"……などと、時間に関連したタイトルがつけられている。「Time −時間−」それは、それだけで知覚心理学の世界では1つの研究テーマになってしまうほど、壮大な概念だ。悲しいかな、私達の生活には常に時間がつきまとう。私達がそれほどまでに時間に魅了され、時に翻弄される理由には、流動的な時間における「今」という時間の儚さにあるのだろう。「未来」と思っていたものはたちまちに「今」となり、「今」と思っていたものは私達が意識する間もなく一瞬にして「過去」となる。「過去」となってしまった時間は決して取り戻すことができない。
そして「ライブ」はそんな時間と非常に密接しているものだ。二度とは体験することはできない、儚いもの。そこが、私達がライブに惹かれる所以なのかもしれない。そんな儚い存在であるライブなのだが、憧れのグラストンバリーの地で行われた数百ものライブの中から、なぜか私は1ヵ月後のフジロックで観られることが既に分かっていた上原ひろみを観ようと思った。その理由は自分でもはっきりと分からないのだが、彼女のアルバムのコンセプトがどこか頭の中に引っ掛かっていたからなのかもしれない。
ニューアルバムのジャケット写真と同じワンピース姿で彼女はステージに現れた。既に泥沼と化していたジャズ・ワールドステージに、雨は容赦なく降り注いだ。集まった客の数はまだ少ない。ライブは"Time Difference"で幕を開けた。これまでピアノ、ベース、ギターのトリオの形態で演奏活動を続けてきた彼女だが、今回ヒロミズ・ソニック・ブルーム名義として新たにギターが加わった。4人の形態になってから生で彼女の音を聴くのは初めてだったが、サウンドは攻撃的を増し、ジャズというよりもプログレ色が強まった印象だ。まだライブをそれほど重ねていないためか、時折4人の音がずれてしまうこともあったが、そんな細かいところはお構いなしとばかりに攻め立てる。音が重なり合うというよりは、ぶつかり合っているといった感じだ。そんなヒロミズ・ソニック・ブルームのサウンドに欠かせない存在は、トニー・グレイのベースだろう。彼の奏でる柔らかい音が、ヒロミズ・ソニック・ブルームの攻撃的なサウンドに良いクッションを与えているのだ。
彼女達の奏でる音に呼応するように、雨はだんだんと激しさを増していった。気温も低く、演奏するコンディションとしては決して最高とは言えない中、まさに「Sonic=音速」級に動く彼女の指からは視線をそらせない。ただ、上原ひろみというと、どうしても超絶な旋律を超高速でアグレッシブに弾く様が注目されがちだが、私は彼女のピアノの魅力は別なところにあると思う。特にそう感じさせられたのが、ライブ中盤で演奏された"Deep into the night"だ。この曲はピアノのソロから静かに始まり、続いてギター、ベースと旋律を受け渡していく。ドラムの参加を合図に、徐々に音の厚みを増しながら叙情的に楽曲は展開していく。音世界が広がっていくその様は、まるで雲の切れ間から太陽の光が差し込み、光のカーテンが作られたかのようだった。こうやって音で風景を描けるところに、彼女のピアノの魅力があると思うのだ。
日本においてはチケットの入手さえ非常に困難である彼女の人気や、私がこれまで観た彼女のライブを考えると、今回のグラストンバリーでの彼女のステージは集まった客の数も演奏の盛り上がりも、とても盛況だったとは言えない。だが、確かに彼女はグラストンバリーの時間を刻み、そこに歴史を残したのだ。
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report by philine and photos by yusuke
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ピアノがグラストンバリーの時間を刻む : (07/06/23 @ Glastonbury Festival, Pilton) : review by philine, photos by yusuke
photo report : (07/06/23 @ Glastonbury Festival, Pilton) : photos by yusuke
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