P18 in Madrid, Spain (Mar. '00)

元マノ・ネグラのトム・ダーナル始動!
巷のキューバ・ブームをはるかに越えたダイナマイト・サウンド、
P18をチェックせよ!
Mano Negra Mano Negra Mano Negra

 かつてフランスにとんでもないバンドがいた。ピストルズとクラッシュとジャムが合体してスペシャルズあたりのエッセンスからジプシー音楽の要素までを融合させながら、どうしようもなくパンクでアナーキーなバンド。それがマノ・ネグラだった。初来日は90年。通常の小屋、渋谷クアトロだけではなく、なんと原宿のホコ天で雨の中、ライヴを敢行するなど、フランスにマノ・ネグラありきを強烈に印象つけたのがこの時だった。

 それから幾度かの来日公演があり、パリでは彼らの驚異的な南米ツアーの模様をテレビで見たこともある。友人の音楽プロデューサーで、現在は映像作家でもあるマルタン・メソニエが担当していた番組だったのだが、彼が見せてくれたのがデッド・ケネディーズのジェロ・バイアフラと一緒にステージに立ったブラジルでの模様。アナーキーでパンキーで... 一切の虚飾を廃したストレートな彼らのロックが「Punk Not Dead」を雄弁に物語ってくれたものだ。

P18  それからしばらく、彼らの噂を聞くことがなくなったのだが、数年前、パリを訪ねたときに、やはり友人から聞かされたのが、そのマノ・ネグラのメンバーが始めたというユニット、P18の作品だった。この時点ではレコード会社も決まってはいなかったし、はたしてこれが作品として発表されるのかもわからない... ひょっとすると、P18という名前だって、この時点ではまだなかったかもしれない。

 結局、それが今回紹介するP18のアルバム「Urban Cuban」として姿を見せることになるのだが、わずか1回しか耳にしたにすぎないこのアルバムの音楽がしばらく耳について離れることはなかった。なんでも半分をキューバで録音し、半分をパリで録音。なかには地元のミュージシャンが地味に演奏していたりする曲もあるのだが、(それがまたいいんだけど)当然ながら、ドラムンベース的な展開も見られたり、レゲエっぽいのもあったり... 例によって、実にマノ・ネグラ的でアナーキーな音楽なのだ。

 それからまたしばらくたって... やっと耳に入ってきたのがスマッシュの運営するインディ・レーベル、サウンド・サーカスからこのアルバムが発表されるという情報。しかも、渡英を予定していた昨年暮れに彼らがヨーロッパをツアーをしているというのだ。となれば、このチャンスを逃す手はない。もちろん、インタヴューもしたいというので飛んだのが11月下旬のスペインはマドリッド。ここで彼らを捕まえ、インタヴューとライヴ取材を敢行することになったわけだ。

P18  ダイナマイト!

 マドリッドを訪ねたとき、彼らのライヴを告知するポスターに加えられていたのがそんな言葉だった。絵のベースはアルバム・ジャケットで、それだけでも十分ダイナマイト級に(?)ド派手なんだが、そのライヴはそれをはるかに越えて文字通りの超ダイナマイトだ。キューバ音楽をベースにドラムンベースからラップにレゲエがごちゃごちゃに混ざり合った強力なダンス・ミュージックがステージで炸裂するという、まずはそのパワーに圧倒されてしまうのだ。

 バンドのフロント・ラインに顔を見せているのはヴォーカル&ダンスを担当するキュートな女性ふたり組にヴォーカル&ラップ&トランペットを担当する、キューバのみならず世界で活躍を続けるバンド、シエラマエストラのバルバロ。まるでスーパー・マリオのように見える彼と、特にラップも担当するパーカッションがキューバ人で、その他をヨーロッパ系のミュージシャンで構成している。なんでもこれがIRE IREというダンス&シンガー・ユニットで、ここに加わっているのがトランペット&トロンボーンのホーン・セクションにギターとベース、そして、パーカッションがもうひとり。その奥で激しく踊りながらキーボードを演奏しているのが、リーダーのトム・ダーナル。かつてマノ・ネグラのメンバーとして活動していた人物だ。

P18  実は、そのライヴを体験する前日にトムとちょっとインタヴューをしていて、そのあたりから紹介してみよう。まずは、マノ・ネグラの顛末だ。
「激しいツアーの連続でみんな、憔悴しきってたんだろうな。毎日のようにアルコール漬けで騒ぎまくって... 結局、コロンビアで空中分解さ。まずは最初に4人が抜けて、最終的にポゴタにたどり着いた時にはマヌとふたりだけになってさ。(笑)一応、プログラミングとかでなんとかやったんだけど、この時点であいつもこっちとは無関係に演奏を始めて...(笑)なんか列車の両輪が別々のレールの上を走り出したって感じかな。ありゃぁ、もう自殺みたいなもんだよ」

 通訳として(彼自身も英語を話すのだが、複雑な話になるとどうしてもフランス語になってしまうというので)バンドのメンバーでトロンボーン奏者のパディがインタヴューに加わってくれたのだが、この話、彼も知らなかったようで、大笑いしている。

 それからしばらく南米にいて、音楽から離れてリフレッシュをしようとしていたのがトム。この頃、タトゥーにはまり、なぜかその流れでキューバに何度も行くようになり、バルバロと親しくなっていったというのだ。

P18 「ま、初めてキューバに行ったのは92年頃。マノ・ネグラのツアーで... もともとキューバの音楽とかは好きだったんだ。ともかく、タトゥー・アーティストになろうと思って南米からパリに帰ってきたんだけど、全然ものにならなくて... 音楽に戻っていったってのか」

 そのあたりの話を聞くと、一時は音楽活動をから身を引こうと思っていたようにも聞こえる。それに、そんなタトゥーの流れから知り合ったのが現地のミュージシャン。「このプロジェクトは音楽的なものよりなにより、友情から始まったんだよ」ということらしい。そして、パリに帰っての試行錯誤が始まったというのだ。

「地下室に機材を持ち込んで... マノ・ネグラとは違ったところから、全く新しいものを始めてみようと思ってね。でも...(笑)どう転んでもマノ・ネグラ的になっちゃうんだよ。まぁ、それは最小限に押さえようとはしているんだけどね」

 このユニット名、P18は、地下室にあるそのスタジオに由来している。それがパリの18区にあるからというシンプルなものなのだが、彼らが叩き出す音楽は複雑怪奇といってもいいだろう。キューバ音楽が核にはなっているのだが、いわばアナーキーなまでに雑多な音楽を吸収、融合したダンス・ミュージック。そのあたりは実にマノ・ネグラ的なのだ。が、それほどまでに斬新なアプローチをしてキューバのミュージシャンが異様な目で彼らを見ることはなかったんだろうか。なにせアルバムの半分はキューバ録音なのだ。

P18 「ひょっとしてどでかいカルチャー・ショックになるんじゃないかと想像していたんだけど、全然違うんだよね。確かに音は複雑かもしれないけど、リズムはシンプルだから、彼らは別に驚きもしないで演奏していたっていうのか... ま、従来のラテン・ハウスとかと違ってただ単にテクノにキューバをくっつけるというのではなく、僕らがキューバに近づくという姿勢で、もっと有機的なものを模索していたからね。実際、こうやってライヴを続けてくるとそれが正しかったのがわかるし、当初思っていたものを遙かに越えて、音楽そのものが成長しているのがわかるんだ。今、ステージ演奏しているのは、はっきり言って、アルバムとはかなり違うと思うよ」

 一方で伝統的なキューバ音楽の世界から非難されたりしなかったんだろうかと思ってみるのだが、それに対してこう答えている。

「最初っから、そういった世界とは完全に距離を置いてアプローチしていたから、なんにもなっかったよ、そんなの」

 とのこと。ちまたで流行している(素晴らしいことだと思うけど)キューバの音楽とは全く違った世界で P18の音楽が生まれているのがよくわかるのだ。

 基本的にプログラミングされたサウンドにミュージシャンが生の音を重ねていくという感じなんだが、ステージをみていてそれを感じたことはほとんどなかった。おそらく、二人のキュートなキューバ人女性、IRE IREのメンバーが絶妙のダンスと歌で観客を魅了したり、まるで炎のでるようなトランペットのソロで圧倒したりというのが理由だろうが、これが生のライヴ・ミュージックでなくてなになんだというのがその印象。アルバムではスタジオ的なものの方がが大きかったのに、ライヴではそれがちょっとした飾り程度になっているのだ。

 いずれにせよ、その音楽の根幹にキューバ音楽のみならずキューバに対するとてつもない愛情を感じさせているのは確かだ。それはいったいどこから来ているんだろう。

「なぜキューバなのか? 簡単だよ。キューバはオアシスなんだよ。いわゆる西側の当たり前の音楽ビジネス的な考え方じゃ全然理解できないと思うけど、ここでは音楽のあり方が全然違うんだよ。夕方ライヴがあっても、工場の昼休みに演奏したり... そんなのふつうのことで... しかも、ラテンやラップ... いろんな音楽が町中に溢れかえっている。僕らにはそれがオアシスのように思えるんだ」

P18  無粋な質問かもしれないが、ツアー中にキューバ人ミュージシャンが亡命するなんてことはないのかなんてことを尋ねたのが取材に同行したスマッシュ・ロンドンのスタッフ。ところが、それに対して笑いながらトムはこう答えている。

「誰もそんなことをしたがらないよ。だって、みんな音楽を愛しているんだから。そんな音楽を毎日の当たり前のこととして演奏できるのがキューバ。彼らは心からキューバを愛している。あんなの西側のプロパガンダなんだよ」

 そのトムがこうも続けるのだ。

「このユニットでずっとライヴを続けてきて、音楽がどんどん進化しているんだ。しかも、スタジオで作ったアルバムのものとは比べものにならないほどにオーガニックなものになっているというのか... だから、できれば、ライヴ・アルバムを作りたいと思ってるんだ」

 嬉しいものだ。本人はマノ・ネグラ的にはなりたくないといっているのに、その発想や姿勢が、さらにはライヴの迫力がどんどんマノ・ネグラ的になっている。なにせ、彼らの音楽といえば、虚飾もなにもないストレートなライヴ・ミュージック。それこそが魅力だった。P18の魅力も、実はそこにある。だからこそ、マドリッドのオーディエンスは通常のアンコールが終わって、客電があがっても会場を去ろうとはせず、足踏みをしながら叫び声をあげ、さらに演奏を求めたのだ。ところが、プログラミングの関係上、結局は、最初からの3曲を再び演奏せざるを得なくなったのがP18の面々。それでもまるでカーニヴァル級のパーティが会場で繰り広げられたのは簡単に想像できるだろう。

 もちろん、アルバムだって強力な内容に仕上がっているのだが、正直言ってしまえば、こんなライヴを体験すれば、それさえもが色あせてしまう。その素晴らしさをなんとか日本のオーデェインスにも体験させられないだろうかと思う今日この頃。Fuji Rock Festival '00に彼らの場所が作られることを切に願うのだ。


report and photos by hanasan on the 13th Mar.
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