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やっぱり渋さは...
渋さ知らズのディスクレビューについて回る言葉は、「やっぱりライヴだよね〜」ということである。渋さ知らズの場合は、何よりも圧倒的なライヴ体験がある。渋さのファンになった人は、おそらくフェスなどでそのライヴに出会ったからだろう。逆に、CDを聴いて渋さのファンになって、まだライヴに行ったことがないという人がいたら会ってみたい。それほどまでに、渋さは現場重視であるのだ。たくさんの楽器によるアンサンブルがもたらす生演奏の迫力に加え、さまざまなスタイルのダンサーやら、映像やら、でっかいキルトやら、いろんなものが視覚を刺激するとなると、その場で渋さの世界を浴びまくり、「やっぱりライヴ……」ということになる。
この新譜『渋夜旅』は、「渋さ史上、過去最長の時間を費やして作られ」たそうだ。今まではライヴのレパートリーの記録といった趣もあった渋さのCDだけど、レコーディングに気合いを入れたのが今回のアルバムなのだ。基本的には、今までの渋さのイメージを裏切ることはない。ホーンが勢いよく鳴り、ファンキーなリズムは強靭で、奇妙な浮遊感があり、ジャズであり、ファンクであり、ロックであるのだ。ロックといってもすごいプログレッシヴなロック。渋さにはプログレっぽい面は常に指摘されているものだけど、このアルバムはタイトルの通り、旅をしているかのような雰囲気を味わうことができる。そういう疑似体験ができるコンセプト・アルバムなのだ。
ノリのよいホーンが心地よい「ドラゴ」で始まり、その勢いを引き継いでジャズとファンクが交差しノスタルジックな感じもする「権太アジール」(アジールとは「神聖な場所」「自由な領域」「治外法権」というような場所を指す。まさに渋さ知らズのライヴの場所がアジールといえる)、フリージャズぽい「水の中の虹虫」、室舘彩のヴォーカルがフィーチャーされた浮遊感のある「漂海鷂魚(ひょえい)」、ファンキーな「島舞踏」、まさに渡り鳥を思わせるスケールの大きい「渡」、ズッコケたようなホーンと渋さ流のサーフロック??「浮渋」、ゆったりとした曲ながらロックで狂ったギターがいい感じで鳴りまくる「ア・デイ・イン・ザ・ライヴ」、カリンバによる小品「浮渋エピローグ」を挟んで、いつもふんどしの渡部真一によるヴォーカルをフィーチャーした「権太チョッパー、パート1」でにぎやかに締める。
こうして緻密で、迫力もある渋さの世界が展開され、完成度が高いアルバムなので、「フェスでしか渋さって観たことないなぁ」というようなライトなファンにも自信もってお勧めできる。このアルバムは、渋さのライヴが圧倒的な構築物だとすれば、その設計図とか完成予想図だといえる。その図面を眺めて渋さの世界を思うことができる。だけど、いくら緻密に作りこまれても録音物は、渋さにとって設計図でしかないんだよな。つまり、このアルバムがホンモノのライヴの場ではどのような存在になるかと想像し、想像するくらいなら実際に体験したくなるのだ。そして、結局は、このようにいいたくなる。「やっぱり渋さはライヴだよね〜」と。
ライヴ スケジュール
4月22日(木)渋谷クラブクアトロ
4月29日(木)大阪 堂島リバーフォーラム
4月30日(金)名古屋クラブクアトロ
reviewed by nob
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