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ブリーチとは傷痕である
発売が相当遅れたとはいえ、こうした形でベスト盤、そしてライヴDVDが出たことに感謝したい。バンドのラストをちゃんと記録として残すというのは、実は難しいのだ。ミッシェルガン・エレファントのように大きなセールスを上げたバンドならきちんと残るけれども、ブリーチのラストライヴの映像が曲がりなりにも全国に流通する形で出すことができたというのは、それだけ関係者の思いがあったからに他ならない。
ベスト盤は、初期から後期までバランスよく選曲されてブリーチの歴史を知ることができる。通して聴くと、ハードコア・パンクな曲が当然多いけれども曲調はバラエティに富んでいて、さまざまなジャンルを吸収して進化していった共に、そのハードなサウンドを深化させていったことがわかる。ハードでへヴィであり、ユーモアがあり、ヒリヒリした現実認識があり、怒りがあった。そんな彼女たちのハードな音は、「日本の」「女の子の」バンドであることを遥かに超越してもっと広いところ、高いところを志向していたのだ。アメリカに何度も足を運び、そこでライヴ経験を積むことによって狭い枠の中で安住することはよしとしなかった。だから、拠点をアメリカに移しちゃうくらいの勢いでやった方がバンドにとってはよかったのかもしれない。今さらいっても遅いけど。
そして、ライヴDVD。これは2009年5月29日の新宿ロフトと5月21日の水戸ライトハウスからの映像が収められている。長いMCはカットされ、「トーチ」の冒頭は新宿と水戸の映像が交互に出てくるなどかなり編集されているけれども、ほぼ当時のライヴの雰囲気を再現しているといっていい。そのときの彼女たちを「獰猛なリズム」と書いたように、怪獣がステージの上で暴れているような迫力、凶暴さがあった。それはガールズバンドのライヴを鑑賞しているということではなく、異物と出会う体験だったのだ。それはエンターテイメントとしてのライヴコンサートという観点からすればギリギリのものだった。決して「あーー楽しかった」とか「感動した〜」とか気軽な感想など口にできない、観る者に傷を残すようなものだった。
そして、かんな、ミヤ、サユリの3人による危ういバランスの上にバンドが成り立っていたことがわかる。「危うい」というのは、今から振り返ってみてそう感じることで、このライヴのときには最後になるなんて思えなかった。それは、サユリの「ありがとうございましたブリーチでした!」という明るい声が物語っている。
今後このようなバンドは出てくるのだろうか。ハードな音を出したり、不思議な雰囲気を持ったりするガールズバンドはでてくるだろう。だけど、ハードであり、不思議であり、そして、なおかつ観る者に傍観を許さず傷痕を残すようなバンドは出てくるのだろうか、という思いがある。彼女たちのことを分析してもしきれない部分があり、それが謎であり、そこが最大の魅力であった。やっぱり実際のライヴで体験してほしかった。このCDとDVDでどれだけ実体験に近付けるか、でも後世の人たちがブリーチを知るにはこれしかないのだ。多くのバンドが志半ばで解散し、後から知る術もないバンドがほとんどの中、やはりこうした記録が残っているだけでも幸せなバンドだったといえる。だけど、解散という選択が正しかったのか、本当に本当に残念だ。
reviewed by nob
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