ジョニー・キャッシュ

Johnny Cash

"エイント・ノー・グレイヴ"
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"The Trilogy"
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buttonCD review : American VI: Ain't No Grave(10/02/28) : review by hanasan

幾度となく体験した「後の祭り」

 正直言って、ジョニー・キャッシュの魅力は全く理解できなかった。「ただのカントリーのおっさん」と不遜なことを口にして、聴こうともしなかったのが若かりし頃。結局、音を「流した」ことはあっても、『聴いて』はいなかった。初めて彼を生で見た94年のグラストンバリーでも同じようなもの。フォトピットで撮影していた知人の写真家が「ジョニーをバックにカラオケやったぁ」と大喜びしているのを尻目に、そこまで大騒ぎしている理由が理解できなかったものだ。確かに、アメリカの音楽史を見れば彼がどれほど支持され、偉大かは想像できる。が、あの時、印象に残ったのはネヴィル・ブラザーズの『ブラザーズ・キーパー』で知ることになったレナード・コーエンの名曲、"Bird On The Wire(バード・オン・ザ・ワイアー)"(『アメリカン・レコーディングス収録』)を彼が歌ったことぐらいだった。

 転機は、自伝映画、『ウォーク・ザ・ライン』に触発されたことだろう。それをきっかけに"Unearthed(アンナースト)"というボックスを購入。敬愛するジョー・ストラマーがジョニーと歌ったボブ・マーリーのカバー、「リデンプション・ソング」を聴きたかったこともその理由なんだが、そのアルバムのブックレットに使われていたジョーの写真がよかった。ジョニーの隣で子供のような目をしたジョーがこのアーティストの魅力を全て物語っていたように思う。このあたりから、風向きが変わってくるのだ。

 ちょうど同じ頃に出たのが、昔から好きだったザ・ニッティ・グリッティダート・バンドの傑作プロジェクト。世代を超えたカントリー界の巨人達と名曲を録音した"Will the Circle Be Unbroken(永遠の絆)"から30年を記念して生まれたその三作目、"Will the Circle Be Unbroken3"だった。そこに収録されたジョニーの「Tears In The Holston River(ティアーズ・イン・ザ・ホルストン・リヴァー)」という曲に息を止めることになる。加えて、そのレコーディングの模様を記録したドキュメンタリーが"Will the Circle Be Unbroken: Farther Along"というDVDのボーナスとして収録されていて、それを見て涙するのだ。

「78年10月23日、私を愛しんでくれた人を失い、涙を流した。彼女の生涯と音楽を祝福する涙がホルストン川を流れていく...」

 と始まるこの曲は彼の義母となるメイベル・カーターとその兄嫁、サラに捧げたもので、ジョニーが「死」を直視していることを感じさせるのだ。実は、このアルバムが発表されたのは02年。ジョニーの妻でメイベルの娘、ジューン・カーターも彼とは別にこの録音に加わっているのだが、彼女が翌03年5月に他界し、その4ヶ月後にはジョニーも後を追うように天国へと召されることになる。どこかで、彼自身も人生の終わりを感じ取っていたように思えてならないのだ。

 あの後、昔にさかのぼって、歴史的なライヴ・アルバム、『アット・フォルサム・プリズン』やDVD付きの『アット・サン・クェンティン』を聴いて、徐々に彼がただ者ではなかったことを知り始めたという「遅れてきたジョニー好き」が筆者なんだが、彼の作品を聴けば聴くほどにわかったのは、彼が「カントリーのおっさん」どころか、ロックであり、パンクであり、そんな言葉を遙かに超えるところで、全てをさらけ出すように生き続けたアーティストだったこと。とてつもない巨人だったということが、すでに生で彼を見られなくなった頃にわかるわけだ。

 前述のようにジョニー・キャッシュが亡くなったのは03年9月。その晩年に彼が続けたのがランDMCからレッチリ、あるいはメタリカといったアーティストの作品で知られるプロデューサー、リック・ルービンとの『アメリカン・レコーディングス』というシリーズ。そういったバンドの名前が信じられないほどに「生の楽器」や人の声に執着したかのような方法で、カバーや他人がジョニーのために書き下ろした曲を中心にかなりの数のレコーディングを繰り返していたようだ。彼の生前発表された最後のアルバムが"The Man Comes Around(ザ・マン・カムズ・アラウンド)"。そして、死後、発表されたのが未発表曲を3枚のCDに、"My Mother's Hymn Book(マイ・マザーズ・ヒム・ブック)"として発表されるはずだった1枚、そして、以前のベストを集めたCDを含む5枚組のボックス、"Unearthed(アンナースト=発掘)"だった。その後、正真正銘の最後の作品として彼が亡くなる直前まで録音していた曲を収録したアルバムとして出たのが、"A Hundred Highways(ハンドレッド・ハイウェイズ)"... のはずだった。ところが、飛び込んできたのが今回取り上げる"Ain't No Grave(エイント・ノー・グレイヴ)"。「墓なんかない」と名付けられた最終章となる。

 その背後にどんな理由があったのか... 想像するしかないんだが、おそらく、それほどまでに素晴らしい録音が「埋もれさせるわけにはいない」ほどに残されていたんだろう。そして、「ジョニーを墓には入れられない」と意味をタイトルに込めると同時に、これで終幕としたのではと思う。

「俺を生きながらえさせているのは記録しておきたいからだ」

 リック・ルービンによるとジョニーはそう語って、死の直前までスタジオにいたらしい。最愛の妻を亡くし、病院との間を行き来しながら、目の前に迫った自らの死まで最後の力を絞り出すように録音していたのが目に浮かぶ。事実、彼は自分の死期を知っていたらしいし、ここに収められた歌を聴いているとそれをひしひしと感じることができるのだ。これを聴いてなにも感じない人間を自分は信じられないだろうと、そう思えるほどに重たく、身も心も震させる、とてつもない「生き様」がここに記録されているのだ。

「誰も俺の身体を墓には押し込められはしないだろう...」

 と始まる初っぱなから、ほぼ全ての歌が「死」や「生」について歌われたものだと想像できる。シェリル・クロウの歌、「リデンプション・デイ」で頭にこびりつくのは「天国の門にまっすぐ向かう列車がいる」というフレーズ。クリス・クリストファーソンの名曲、「フォー・ザ・グッド・タイムス」では「悲しい顔するなよ、終わりはわかっているから。でも、人生は続く、世界は廻る。一緒にいたことを思いだそう」と続く。1発で歌を聴いて全ての言葉がわかるほどの英語力は持ち合わせてはいないんだが、音楽の向こうから「いのち」の歌が、言葉が聞こえるのだ。

 が、センチメンタルな後ろ向きがジョニーじゃないのは当然。ここに収録する曲を考えたのはリック・ルービンに違いないんだが、こんな曲も出てくるのが嬉しい。

「変な夢を見たよ、世界が戦争をやめようって、絶対に闘わないって署名しているんだ」

 もちろん、これは現世に対する皮肉でもあるんだろう。ひょっとして死後の世界のことを歌っているのかもしれない。そして、アルバムの最後を飾るのはハワイの「アロハオエ」。まるで南国の楽園にでも出かけたような雰囲気でこれが歌われるんだが、最後をしめるのは「これでおさらば。でも、向こうで会おうぜ」という言葉。それでアルバムの幕が閉じる。

 と、これほぞ素晴らしい作品に出会っても、後の祭り。彼のライヴを生で見ることはもうできない。今年1月に亡くなったボビー・チャールズだって、同じこと。もっと早く出会っていれば、そして、もっとじっくりと音楽を聴いていれば、こんなことにはならなかっただろう。もっともっと感動があり、感激があったはずだと、音楽を聴いていなかった自分を反省するのだ。


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