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映画が終わって、場内が明るくなると、泣いている女の人がたくさんいたのが見える。その気持ちはよくわかる。何度もスクリーンにアップされるアベフトシの表情がこんなにも寂しさ、哀しさを湛えたものだったのか、それは確かに当日の幕張にいた自分も観ていたし、magのフォトレポートでもちゃんと記録されている、だけど、こうして動く映像として改めて観ると、アベの表情に胸を突かれる思いである。バンド全体としては、そんなに悲壮感もなかったし、うじうじせずに乾いたものであったけど、やっぱりアベは何か他のメンバーと違った思いがあるようだ。それはくっきりと刻印されている。
自分は98年のフジロックではじめて彼らを目撃し、あの壮絶なステージを体験して以来、ミッシェルに取りつかれた。横浜アリーナのオールスタンディングに行き、アメリカのツアーを追っかけ、代々木公園のフリーライヴに行き、00も03もフジロックは観たし、もちろん単独公演も何度か観た。心底震えるようなかっこよさを味わうこともあったし、正直、がっかりしたライヴもあった。それでも、その存在は圧倒的だった。ロックバンドがロックらしさを保ったまま、こんだけの万単位の人を集めるような規模でライヴができるバンドというのはそんなにない。あの日、幕張に向かう電車の中で何度も過去のライヴを思い返していたのだった。
2003年10月11日、幕張メッセの9〜11ホールを使い、3万7千人を集めミッシェル・ガン・エレファントは最後のライヴをおこなった。そのとき撮影された素材が編集され一本の映画になった。この映画には、98年豊洲のフジロックや仙台でのトラブルの様子も挿入されたり、2000年フジロックのバックステージやテレビでインタビューを受けるシーンもいくつかある。しかし、あくまでも幕張メッセのライヴが大部分を占める。そこに加えられたいくつかの映像により、控えめにバンドのヒストリーを振り返るドキュメンタリーなった面もある映画だ。
それは、幕張に集まった人たちが感じていたことなのではないだろうか。それぞれが自分とミッシェルが歩んできた歳月を振り返り、バンドの終わりを受け入れるために3万7千のお客さんとバンドの4人とたくさんのスタッフが、目の前で繰り広げられるステージを観ながら、ミッシェルの歴史を思い出していたのだ。映画は、このようなライヴを追体験できるものとなっている。欲を言えば、映画のオープニングはメンバーの登場シーンの方がよかったと思うし、例えば"ゲット・アップ・ルーシー"のイントロでお客さんの表情が変わる様子を映してほしかった。
いろいろ注文はあるけど、それでもやっぱりライヴの空気感はとても伝わる。"スモーキン・ビリー"で大合唱したなとか、"GT400"で泣きそうになったとか、当時のことがまざまざと思い出された。そしてやっぱり強く残るのは、アベの顔だった。こんな表情でギターを弾くロッカーを観たことがない。そして、ミッシェル・ガン・エレファントに再結成というものが永久にない、それはハイ・スタンダードにも、ブランキー・ジェット・シティにもまだ残される夢が、ミッシェルには絶対にあり得ないという事実を突き付けられ、スクリーンの中にしか存在しないことに心の痛みと共に受け入れるのだ。
追伸:この映画は『ミッシェル・ガン・エレファント“THEE MOVIE”-LAST HEAVEN 031011-』としてDVDもしくはブルーレイで販売され、特典映像なども付くということだけど、まずは劇場で観ることを強くお勧めする。
reviewed by nob
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