|
|
|
格安廉価盤で温故知新 - vol.4
ある日、amazonをチェックしてみつけたのが、なんと690円で売られている名盤の数々。データだけのiTunesより安く、多くが最近プレスされたリマスター盤というので、アナログでしか持っていなかったものを中心に買い漁っていったんだが、これが面白い。ひさびさに聴くと、以前とは違った響きを感じながらも、「やっぱ、すげぇ〜」と感動することしきり。格安で入手できるそんな名盤の数々をみなさんにも聞いて欲しいなぁと切実に思うのです。
と始まってすでにこれが4本目となるんだが、探せばいくらでも出てくる破格の輸入盤、もし興味があればご自分でも探してみればと思うのですが、今回入手したのはオリジナル・サイケデリックの隠れた名盤、ダニー・テイラーとシメオンと呼ばれる人物のデュオ、シルバー・アップルズの名盤、『Silver Apples / Contact (シルヴァー・アップルズ / コンタクト)』(UK import)。とはいっても、昔からのこのバンドを知っていたわけではない。かつて友人にサイケデリックな音楽をチェックしたいんだが... と、アドバイスを求めていたときにBlue Cheer(ブルー・チアー)にTomorrow(トゥモロー)と一緒に彼らの名前が出てきたという記憶がある程度。それも数年前のことで、はっきりしないし、これが高かったら、おそらく、こうやってここに書くという結末にはなっていないだろう。が、今回はたまたま690円という値段に加えて、68年に発表されたデビュー・アルバム、『シルバー・アップルズ』と、69年発表のセカンド、『コンタクト』が2 in 1の形で出ているというので、単純な興味本位で買ってみたのだ。ところが、最初の音からぶっ飛ばされることになる。「なんじゃぁ〜、これはぁ? めちゃくちゃおもろいやないけ〜」と、頭を殴られたような感覚に陥り、心の鼻血がどばぁ〜っと噴出してしまったのだ。
といっても、そもそもサイケデリックって... よくわからん。ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』からストーンズの『サタニック・マジェスティーズ』あたりがメジャーな作品の典型だと思うが、それなんぞ氷山の一角どころか、髪の毛一本のようなものらしい。実際、頭が爆発してしまいそうなトリッピーな音楽を意識したのは80年代のロンドンでサイケデリックのリヴァイヴァルが起きたころなんだが、そんな世界への扉を開いてくれたのがThe Dukes Of Stratosphear(成層圏侯爵?)の作品だった。元来そんな色合いも持っていたXTCが変名で録音したもので、タイトルは『25 o'clock(25時)』。(現在はその続編、『Psonic Psunspot(ソニック・サンスポット)』との2 in 1として、『Chips from the Chocolate Fireball(火の玉チョコレートの断片?)』となっている)。そのときのインタヴューでネタ元をいろいろと教えてくれて、13th Floor Elevators(ザ・サーティーンズ・フロア・エレヴェイターズ)の『The Psychedelic Sounds of..(サイケデリック・サウンド・オヴ...)』やザ・ゾンビーズの『Odessey and Oracle(オデッセイ・アンド・オラクル)』にThe Electric Prunes(エレクトリック・プルーンズ)の『I Had Too Much to Dream (Last Night)(今夜は眠れない)』といった有名な作品のみならず、パティ・スミスのバックでギターを演奏しているレニー・ケイによるコンピレーション、『Nuggets(ナジッツ)』あたりを買い漁って、薬物抜きの仮想トリップを楽しんでいたものだ。かといって、コレクターズのように集めたわけではないんだが、ときおり、新たなトリップ・ネタとして中毒症状が出ることがある。前回のネタはThe West Coast Pop Art Experimental Band(西海岸流行芸術実験楽団)の『Part One(第一部)』。これもいいトリップができたものです。
今回も、「よっしゃぁ、安いし、新しいトリップだ」と思って、手に入れたんだが、そういった一連のサイケデリックとは全く趣が違うのだ。もちろん、サイケデリックがプログレからメタルのみならず、ソウルからジャズにまで影響を及ぼしているということもあって、いろんなものがあって当然なんだが、自分にとって決定的な要素は、「ぎゅぃ〜ん、ごわぁ〜ん...」と意識がどこかへ持って行かれるようなトリップ感。その代名詞のような作品がザ・バーズの『Fifth Dimension(五次元)』に収録されている「Eight Miles High(標高8マイル?)」あたりで、ギターがとんでもない世界へ我々を連れていってくれるのだ。それこそ、8マイル上空まで意識がぶっ飛ばされる感じかもしれない。
が、この『シルヴァー・アップルズ / コンタクト』にはその「ぎゅぃ〜ん、ごわぁ〜ん...」がない。それよりも、なにやら催眠術にでもかかってしまいそうな感覚なのだ。ミニマル的なリズムが延々と続き、そこにペラペラな感じのヴォーカルやコーラスが重なる。ときには、電話のベルのような音が周期的に響き、「なんでじゃぁ?」と思えるように、突然バンジョーなんて楽器までが飛び出してくる。と思えば、そのバンジョーをまるでフリー・ジャズのようにかき鳴らしてみたり、爆発音が出てきたりといった音のコラージュもとてつもなくアナーキー。そのおかげで、呪術的なトランス状態を体験しながら、遙か彼方の宇宙に旅をしていると思ったら、ときおり、いきなり現実に引き戻されるような感覚に陥ったり... しかも、その感触が実に有機的。今時のテクノと比較なんぞできようもない時代の音楽なんだが、その無機質なリズムとは全く逆の人間性を感じてしまうから面白い。
ジャケットのブックレットに書かれている解説や写真を見ると、シメオンは9個のオーディオ・オシレーター(発振器)に86個のマニュアル・コントローラーを、なんと手に、肘、膝に足を使って演奏していたんだそうな。まるでサーカスのような神業に思えるが、実際はどうだったんだろう。その一方で、ダニーのドラムスも当時としては驚異的で、13のドラムに、5このシンバルにその他のパーカッションを並べて機械的なリズムのみならずメロディーもたたき出せるようにしていたという。名付けてザ・テイラー・ドラムスということになっているが、この写真を見て、そして、彼らの音楽を聞いて、無謀に今時の音楽ファンの方々に彼らを説明してしまうとすれば『石器時代のケミカル・ブラザーズ』という感じかしらん。なにやら、それが最もぴんと来るのだ。
しかも、実際に「楽器を演奏している」オーガニック・テクノとでも呼べそうな代物。そんな彼らが全然無名のまま全盛期のスティーヴ・ミラー・バンドやザッパのマザーズ・オヴ・インヴェンション達と共に30000人のオーディエンスの前で演奏したことが今回のアルバム制作のきっかけだったんだとか。なにせ、この音楽をライヴで「演奏」していたのがこの二人。この日の話題をかっさらって、一躍メディアの寵児となったと記されている。当然だろう、こんなのを生でやられたら、かないませんわ。
アルバム前半のファースト・アルバムは4トラックのスタジオで音を重ねていって、作り出したとあるんだが、こうやって作られた旧時代テクノがゆらゆら帝国からステレオラヴあたりに大きなヒントを与えたとか... って、調べていくと、そんなことが書かれているサイトもあった。690円でこんなに楽しませてもらっていいんだろうかというほどの名作。といっても、洒落もわからない人にとっては、「なんじゃ、これ」で終わってしまうんだろうが、楽しいことこの上ない。
さて、このシルバー・アップルズ、実は96年に再結成している。ただ、99年に交通事故に遭い、以前のようにオシレーターを使えないようになったらしいことに加えて、2005年にはダニーが他界。それでも、シルバー・アップルズの名前で現在も活動を続けているとか。しかも、そのスケジュールを見ると今年のサウス・バイ・サウスウェストに出演するとある。現在のシルバー・アップルがどんな感じなのか、しっかりと取材して来ようと思うのだ。
なお、このアルバムに収められている全曲をlast.fmで試聴可能となっている。そんな意味で言えば、買う必要はないかもしれませんけど... それにしても、面白すぎます。
reviewed by hanasan
|
|
|