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ひねくれたベスト盤
ザ・スラッカーズは踊れる不良のダンス・ミュージック「スカ」の裏側にソウルもスウィングもジャズも編み込んで、それら黒々とした音にはかなり敏感なニューヨークの人々を唸らせてきた…とかいう壮大な触れ込みもウソではないし、むしろ素晴らしいことだが、新しく届いたこのアルバムのタイトルは『Big Tunes! Hits & Misses From 1996-2006』となっていて、なんでしょう、大手メディアによる数々の賛美をあっさりとうっちゃり、等身大で行こうとする心意気に思わず笑ってしまった。
まるで「売れようが売れまいが〜やってきたんだぜ〜こんな曲たちをよぅ…」と呟くメンバーと、気楽に一緒にふざけあって乾杯できるような、そんな気にさせるのだ。いや、きっと(もうじきだ!)ライブの後には自然と誰かれかまわずそうなるんだろう、と僕は踏んでいるんだがどうだろう。
さて、タイトルで興ったリラックスの後に迫ってくるザ・スラッカーズの今までは、ゆるくて楽しげではあるけれど、もちろん手抜きは一切ない。個人的愉しみとしてしかないはずのCD再生という行為にワイワイガヤガヤを持ち込んでくれるおかげで、自然と体は動き、傍らに置いたビールとつまみのペースを早くしてくれる、と、結論からいえばそんなアルバムになっている。どうせだったら、ライブ会場の物販コーナーでメンバーから手渡しで受け取り、さらにはサインを書いてもらって、ゆくゆくは聞きすぎてボロボロになった、とかのほうが嬉しいので内容を放ったらかしにはしてきたが、それではレビューとして許すまいか。
一曲目"Have A Time(ハブ・ア・タイム)"ではドラムスの、歯の隙間からこぼれる息のようにも聞こえるハイハットと乾ききったタムが道を創り、ミュートしたギターはその道に落ちている小さくとも転がる石となり、いずれくるバンドのうねりと共に流れ出さんとしている。じらしのイントロで隙間の美学を発揮したところで、ホーンをはべらせたヴィック・ルジェイロのしゃがれ声とコーラスが、その道をいよいよ走り出す。走れば乗っかるハコ乗り精神をくすぐる、来るもの拒まない無尽蔵な広さをもった車を、スラッカーズはベスト盤のスターターとして選んだ。
「スカの早いビートで疲れたジャマイカンはゆったりとしたレゲエを生んだのです」的なことを誰かが言ったが、後追いの僕らとしてはどっちでも構わない。同じ感覚ならいちファンとして嬉しいんだけれど、ええもんはええ、という感じで、子供ゴコロをくすぐる犬コロの鳴き声や、ニクい裏切りの転調も、地下深くへと追い落とすようなダブをちょいと細工しスパイ映画のような緊張感を生み出す術も見せてくれている。疑似ハラハラ体験をさせたら今度はアゲていったろう、と曲順にもこだわったんだろうな、即座にラッパとパーカスがようようと走り出す曲を持ってきてくれている。ベスト盤のくせに物語のようで、相変わらずの反骨や遊びや切なさまでもを堪能出来る作品ここにあり! ですよ。
reviewed by taiki
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