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早速、iPodに落として1曲目を聞いたらマジでイヤホンが壊れたのかと思った。T・レックスの香り漂うメロディーにたっぷりとノイズを塗り込んだ音がアルバムの幕開けを飾る。そんな崇高ではないジャンクな音が最高にかっこいいし、彼らのヒネた感触をはっきりと感じることが出来る。そう、キャリア2作目としては上々スタートだ。
レコード会社のバックアップなしに、口コミやライブだけでヒットさせた1stアルバムの熱気も冷めぬままに届けられたクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーの2作目『サム・ラウド・サンダー』。彼らの持つポップさとサイケデリックな実験性が見事にパッキングされている。リラックスした音と人懐っこいポップさが同居していた前作に比べると、音のテンションはかなり上がり目で尖った感じに仕上がっている。と、思っていたら、クレジット欄にデイブ・フリッドマンの名前を発見。マーキュリー・レブやナンバーガールのプロデュースでお馴染みの名前。レコーディングも彼のスタジオでとり行われたようだ。そのかいあってかセルフプロデュースの前作に比べて聞こえてくる音はかなり整理されて、非常に構成力に富んで鳴っている。一つ一つの音が遠近法的な強弱がつけらていて、見えてくる景色は前作に比べて遥かに豊かになっている。ラストを飾る"ファイブ・イージー・ピース"。美しいアコギとベースのリフがループされ、その上を漂う様々な音達。そして、無軌道に歌い、そして彷徨い続けるアレックの歌声。まるで青く美しい海の中を潜っているような風景に出くわす。前作に増して想像力の広がりを喚起させる音の洪水に気持ちよく身を委ねてしまう。
とはいえ、フリッドマンのプロデュースがこのバンドの持ち味を変えたり、消したりしているわけではない。そう、1作目を聞いた時に感じたひねくれたポップさと洗練されずに鳴る音色。このバンドの核にあるのはあくまでもそんな部分なんだと逆にしっかりと見えてきた。あのアレックのメロディーを無視したようなヘベレケな歌声は洗練なんて言葉とは程遠い所にある。想像を裏切るような曲構成だってきれいとはいい難い。コーラスだってチープな匂いが立ちこめている。芸達者なメンバーだけに描きたい絵はたくさんあるに違いない。凄腕だけど彼らの描く絵は決して展覧会に飾られるようなものではなく、あくまでもストリートに描かれているアートそのものだ。決して実験的な音だけに頼り過ぎることはない。見る側(聞く側)を楽しませるということがしっかりと念頭に置かれている。その辺のバランスがとても絶妙。後半部ではライブのラストを飾れるような壮大な曲が連打されているが、それでもそんな泥臭い部分が隠されることはない。そういう意味で、この人達がT・レックス好きなんだと丸わかりな所もたまらなく好意的に見てしまう。そんな素の部分の彼らを味わえるのも非常に魅力的な所だ。
1作目に感じた牧歌的な匂いを残しながら、しっかりとスケール感を増してきた今作。今作もまたアメリカでのレコード会社との契約はない。(日本ではV2レコードよりリリース)そんなDIYな精神は音楽の力強ささえ教えてくれるようだ。すでに2度の来日公演を果たしてはいるが、出演の決まっていたフジロック06はアレックの喉の不調でキャンセル。泣く泣く涙を飲んだ一人としては早速今年の出演を決めてくれたのは何とも嬉しい限りだ。更なる飛躍が期待に胸を浮かべてしまう2作目。手を叩いて、「イェイ」と叫んでみようじゃないか。そうスピーカーから溢れてくるあの音楽に合わせて。
reviewed by sakamoto
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