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ヴィックの、いったいどれだけの酒が喉を通過したのだろうか、と思わせるしわがれた声。まずこれが、トム・ウェイツやボブ・ディランの匂いを感じさせる。その声が、スカの小気味良いリズムに乗って漂えば、こちらも片手にジョッキあるいはグラスを持って、ダンスに興じてしまうというものだ。俗に言うスカコアやネオスカの素養もありつつ、さらにルーツに歩み寄る形で、真正面から大陸と島国の橋渡しをしている。ニューヨークに集まった移民だのなんだの、すべて巻き込んで膨らんでいったスラッカーズというバンドには、ヴィックを突き動かすジャズやブルーズやフォークというベースに、他のメンバーが持ち寄ったスカをはじめとしたジャマイカの音楽をとろりと流し込む。
"Propaganda(プロパガンダ)"のノリはダンスナンバーのスカでありつつ、コーラスはレゲエ時代のものだったりと、ジャマイカを時代で切り取ることなく、おいしいならばそのすべてをひとつにしてみよう、なんて冒険心も光っているのだ。かような意味で、裏打ちを武器とする幾多のバンドと一線を画している。ダブ・プレートまでもを自ら作ってしまう幅の広さは、もぅホントに驚くばかり。ジャマイカの時代を猛スピードで追っかけてるよ! ってなもんで脱帽だ。
さらに、先に挙げた曲名(プロパガンダ=政治的宣伝)でもわかる通り、政治色も強い。底辺から叫ばれる歌詞はセレブだなんだと気取っている日本にこそ必要なのかもしれないとも。毎年春にイタリアが誇る労働者階級のバンド、バンダ・バソッティがてんやわんやの大騒ぎを繰り広げるストリート・ビート・フェスティバルにも参加経験ありで、やっぱりスラッカーズもクラッシュやマノ・ネグラの影響下にあるバンドなんだろうと思う。決して明るい歌詞ではないけれど、皮肉まじりに叫ぶ社会批判をまるごと軽快なリズムに乗せて、僕らの懐にスッと入りこんでから、さりげなく社会への認識を正してくれる。
最後に持ってきたのは、ボブ・ディランの"I Shall Be Released(アイ・シャル・ビー・リリースド)"。ザ・バンド、トム・ロビンソン・バンド、果ては岡林信康もカバーした名曲である。スラッカーズのゆったりとしたレゲエのバージョンをかけながら、英和辞典を片手に単語を追って、その意味を考えるのもいいのではないだろうか。
reviewed by taiki
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