|
世界地図に色づけをしよう
リスペクトが詰まったこのアルバムは、まるで都市のセントラルターミナル。四方に伸びてゆくラインはパンクやスカやラテンへと伸びていく。誰しもが国境や政治など、まどろっこしいプライドからくる負の類いをすっかり忘れて旅することができるはずだ。
一曲目の"16 Hi-Land"は、繰り返されるパーカッションを軸として、エフェクトを混ぜ込んだ楽曲で、目に見える音として鳴っている。くたびれた蒸気機関車が通り過ぎるようでもあるし、人類が未開拓の密林に突き進んで行くようにも感じる。一定の間隔で響いてくる叫びはそれぞれのリスナーが思い描く情景に合わせ姿形を変え、DIYなテーマパークを提供している。柔軟なサウンドは極めてユニークであるから、前衛アートほどストイックではなくて、エッシャーあたりの騙し絵的感覚で、今日はお酒を呑みながら、明日は口元を緩めながらと、様々な楽しみ方が実践できてしまう。"Oh mummy"はラテンアメリカから発車したカーニバルがカリブを抜け、やがては世界を縦断し、人種や国籍を取っ払った大行進になっていくといった印象で、アッパーなサウンドに乗る歌詞は世相を見事に皮肉り、プロテストソングとしての意味を与えている。
"ミニパト・ガール"では、"Blank Generation"(Richard Hell & The Voidoids)を思わせるメロにサックスが絡みつく、破壊力抜群なキラーチューン。歌詞を要約すると、国家権力にはへこたれないぞ、でもキレイだったなぁあの娘。といったところか。まるで飲み屋で交わす愚痴のようであり、思わずニヤニヤとしてしまう。かと思えば、"握り拳のメロディー"は刑事ドラマの哀愁を漂わせながら、絵の具を混ぜ合わせるかのようにジャズとスカの融合を真摯に試みている。また、X-Ray Spexにテクニックと音圧を加え、さらに加速させた感のある"MUTINY"で慌ただしくタラップを駆け上がり、ふと気づけば、またまた異国の地を踏んでいる。「音の治外法権」を地でゆくZOOT 16は、入国のスタンプを必要としないばかりか、パスポートもいらない自由気侭な旅をするのだ。時代も背景も全く気にしないスタンスで。
"愛のテキーラ"は、ルチャ・リブレ(メキシコの空中技を主としたプロレス)のマスカラ(マスク/覆面)をかぶったルチャ・ドール(レスラー)を呼び込むようなコールで始まり、間発入れずフラメンコのリズム。さらにダンスをうながすハンドクラップが乗っかって、歌謡曲に近いヴォーカルがステップを踏んだりスピンしながら踊っている。スペインからメキシコへ続く文化の過程を凝縮して4分足らずの曲に詰め込んで、聞く者を旅人にすると同時に、自らもルーツを深くえぐる旅に出ているのだ。以前、ZOOT 16が7inchで発表した"619"、"HURACANLANA"などのタイトルはそのままルチャ・ドールの必殺技で、音楽だけではとどまらない世界の広さが伺える。続く"Welcome to the casbah"は、SKA FLAMESの持つ善と不良の、不良な部分を抽出しているくせに、そこにアラブの隊商がラクダにまたがって通り過ぎていくような摩訶不思議ワールドが展開される。さらに、"ごめんねマイペース"は、レゲエの色づけがなされてはいるが、どこか河島英五を匂わせ、それらに関してこちらが何を言おうとも、脱力したタイトルがツッコミをするりとかわしてしまう。あらゆる文化に精通した人間が、斜に構え、楽しんでできた産物なのだ。
ZOOT 16は渡辺俊美(Tokyo No.1 Soul Set)のソロなのか、ファミリーを含んだバンドなのかはチト曖昧だけれども、この男が発起人となってやらかすことに線引きなど一切必要ないと思うし、闇雲に信じても裏切られることはない。実際、やりたいことを仲間でわいわいとやっている。国境のない大地の輪郭だけの世界地図を広げ「渡辺俊美から感じる匂い」と題して色を塗っていったとしたら、相当カラフルになることだろう。単純に楽しいと言い切ってしまうよりも、リズムにのって叫ばれる陽気さと楽しさがあるウキウキワクワクがふさわしい。単純に語感で捉えればいいのだ。そもそもZOOT 16とは、ずーっと16であるというウソのようなホントのはなし。とにかく、タレントで言えば所ジョージのような、人生を遊びに変えるヒントがこのアルバムには詰まっている。さりげなく挿入される社会批判やオトのスタイルを照らし合わせてみれば、どこかで書いてた「日本に生きるJoe Strummer」なんて言葉も頷ける。彼に対してならば、僕も「偉大なるイェスマン」になれそうな気がするぜ。
reviewed by taiki
|
|
|