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マーガレットズロースというバンドがいる。その佇まいは4畳半の和室(風呂無し)に暮らす貧乏学生という感じであり、決して上手いとは言えない演奏の中でのたうちまわる姿が凄く印象的なバンドだ。最近は友部正人のバックを務めるなど、日本のフォークロックからの影響を感じさせる。演奏はオーソドックスなロックンロールにブルース混ぜたような感じだ。はっきりと言ってしまえば音楽的に目新しいことをやっているバンドでは決してない。
そんな、ズロースが届けてくれた新作「DODODO」。僕の頭の中はここんとこずっとこのレコードがまわり続けている。泣き出しそうな声で歌う平井正也(VO&G)の声がずしりと響いてくる。この、ズロースというバンド、昔から愚直なほど真直ぐな音を鳴らしてきた。歌われる歌詞も、バンドの音も剥き出しで純粋で、裸を曝け出しているようだった。だけど、それがこのバンドの弱点でもあったりもした。その純粋な真直ぐすさがあまりにも前面に押し出てきてしまって作為に感じてしまい、音と聞き手に壁を作ってしまう場面もあったからだ。しかし、今作ではそんな壁は全く感じずに1枚が終わってしまう。方法はそのままで、突き抜けてしまった1枚だ。
作為度という点でいうと今作はホーンの音が聞こえたり、これまでなかったレゲエのビートを演ったりとサウンド面では実は高かったりする。録音状態もこれまでになく良好である。そんな軽快なサウンドに絡んでくる平井正也の選ぶ言葉は純粋であり、感情的だ。それでも青臭い言葉だと一蹴出来ないのは、バンドの音とのバランスの妙だろう。先走り過ぎずに、あくまでもサラリと歌声支えながら、聞かせることが出来る演奏は、これまでみたいに綱渡りならない強さが聞こえてくる。そんな安心感がこのバンドの最大の魅力である平井の歌詞、純粋な感情の発露を支えている。
そうは言っても、このバンドの姿勢はちっとも変わっちゃいない。あくまでも真直ぐな音を色気も見せず紡ぎ続ける姿には恐れ入ってしまう。色んなものがとにかく進歩を追求している中で、こんな作品がこれだけ説得力を持っているのは、完全にバンドの勝利だと言ってしまいたいぐらいだ。素直な音が素直に心を開かせる。素直さの連鎖。とても素敵だ。生きていることは素晴しいことの繰り返しだけではないかもしれない。だけど、素晴しいことはずとずっと遠くにあるばかりではないと気付かされる音だ。だから僕は安い石鹸で髪を洗う彼女を好きになることが出来るんだと思った。
reviewed by 坂本唯
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