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お帰り、ミューズ!約3年振りのニュー・アルバム、あれれ、いつもの特許マット式息継ぎ唱法がなりを潜め、プリンスさながらのファルセットで小粋にダンス・フロアを揺るがすかのようなシングル曲を皮切りに、過去3枚の作品では聴いた事も無いような、アップ・テンポかつ陽気なピアノとマットの歌声が真新しい"スターライト"。ジプシー・ギター風のイントロが,徐々にミューズ十八番の狂喜乱舞なバンド・アンサンブルに転調される壮大な、"シティ・オヴ・イリュージョン"。今までの鋭利な音の刃が、そして、その神々しさ故に畏怖の念すら感じ、肝を据えて聴かなければ容易に吹き飛ばされてしまいそうな轟音のギター、のたうち回るベースにドラムと、3人編成にもかかわらず、どこをどうしたらそんな狂騒を奏でられるのか摩訶不思議なほど炸裂する音、音、音の豪速球が、それらを受け止める聴き手が固唾を飲み込み、恐る恐る対峙することでその凄絶さが更に強調されていた以前の世界に比べ、美しいメロディをより際立たせるように心持ち後ろへ下がり、そのヴォリュームを抑え、揺るぎないサウンドの骨組みの構築に徹し、極めつけはマット・ベラミーのシンガーとしての表現力が開放的に外側へ向かって、何よりも伸びやかに磨かれているのだ。
今作の歌詞には、マット自身が日常で感じているいう「闘うこと」に対して覚醒する人間の思いが込められており、"ナイツ・オヴ・サイドニア"はミューズらしい叙情溢れるヘヴィ・サウンドに更なる歪みが感じられる一曲だが、そこには社会の中で操られている事を知りながら、その底辺の一部でしかない人間が抵抗しようにも成す術が無い事実への煩悶や、"アサシン"、"テイク・ア・バウ"においては、結果が一般市民にどう影響を与えるのかをろくに考えもせずに重大事項を決定する、操り人形のような国の代表者達についての痛烈な批判を投影させている。
政治的な問題提起を示唆する"マップ・オヴ・プロブレマティック"を含め、言葉の上ではややシリアスな傾向にあるが、まずははじめに耳にするこの新生ミューズの音といい、変化というより、良い方向に転じた革命ともとれる出来である。英国メディアに対して、メンバー自らが「これはオプティミスティックなアルバムだ」と語っており、「いつものミューズらしくない,と思う人もいるかもしれないけれど、前向きな感情が世界中の問題に意識を向ける強さを奮い立たせてくれる。今作では、多くの曲に、変化をもたらし,革命を起こそうという強い願望が現われていることに気づいてもらえると思うよ」と、アルバムを総括している。
サイドニアとは生命体が存在していたと信じられている火星の領域であり、人間の病を表すスーツをまとった4人の騎士がそれぞれ新約聖書のヨハネの黙示録を象徴し円卓を囲う、現実と幻想が織り成す預言的なアートワーク。ミューズの最新作『ブラック・ホールズ・アンド・レヴァレイションズ』は迷う事なく確信に満ちた彼らの第2章であり、嵐のようにハイパーな持ち味は失わずして、既存の表現のみにとどまることなく新たな分野への挑戦を果敢に試み、その結果、これほどまでに素晴らしい激情の音楽に仕上がっている。怒濤のライヴ・パフォーマンスと未だ伝説になっている2004年のグラストンバリー。伝説はレディングでも起きるかもしれない。
reviewed by kaori
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