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悩ましいボーカルだ。といっても別に身をはだけて歌っているわけではない。そういう外的イメージによる色気ではなく、ハウリング・ベルズのボーカル、ワニータの歌声には匂い立つ色香が漂う。その、耳で感じる他ない目に見えぬ艶は、陰りあるギターと重たくうごめくベースラインが織り成す楽曲の中で、何かを弄ぶように妖しく響き渡っている。
場末のキャバレーで演奏されたらしっくりくるであろう、全編を通して感じられるけだるいいメロディ。おどろおどろしいイントロが不気味な"ザ・ベル・ヒット"、雰囲気はアンニュイだが、明確に主張する旋律の"ロウ・ハプニング"、淀んだ流れにファルセットが絡み、曲の空気を変える"ブロークン・ボーンズ"。"ウィッシング・ストーン"の陰気な、後を引くサビ。起承転結はっきりとしたポップ・ソングとは言い難く、一聴して耳に残るタイプの楽曲ではないが、何かねっとりとまとわりつくような歌と旋律に心が引き寄せられる。不穏な妖気を孕んだ誘惑的な声にダークなギター、バランスを損なわないリズム隊が展開する曲の端には、聴き込めば伝わって来る掴み所もうかがえる。派手な演奏ではないが、ギターの音色は退廃的で、同じ響きを持つ歌声に上手く絡み、支えとなっている。
軽はずみに既存の女性ボーカリストを引き合いに出して形容するのは避けたいので、妖しい歌声と音楽に魅力を感じる人にはそれぞれの感性で聴いてみて欲しい。不要な事前情報に惑わされずにどこまでその音楽が、その独自性が伝わるか。そういう意識を持って流れる音楽に耳を傾けると、そこにある本質が鮮明に見えて来る。忘れかけていた原点を再び呼び覚ましてくれた、貴重なアルバムだ。
reviewed by kaori
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