|
ロンドン南西部出身の父と息子、その幼なじみらで構成されたユニークなバンド、ミステリー・ジェッツ待望のデビューアルバム。細部まで凝った楽曲と、独特な世界観を展開し続けて来た彼らが満を持して臨んだ今作は、曲、アート・ワーク共に新人離れしたかなりの秀作に仕上がった。
冒頭のインストルメントが軽やかに2曲目の"ユー・カント・ フール・ミー・デニス"へと導く。シングル・カットされたこの曲は、明朗なメロディー・ラインと、牧歌的な雰囲気を帯び、ほのぼのとした印象を与える。サビで歌い上げられるハーモニーでは英国の匂いが強く放たれ、フロントマン、ブレーンのクセの強い声が、良く映えている。続く"パープル・プロウズ"はギターがメロディを先導しながら曲の核へ進んで行く爽やかな1曲。"ザ・ボーイ・フー・ラン・アウェイ"ではこれまた伸びやかな高音と、それに上手く絡まるコーラス、芸の細かいパーカッションがまるで祭り囃子かの如く豪快に弾ける。一方で、それまでの陽一色の雰囲気を根底から覆す"ホース・ドロウン・カート"。サビの多重コーラスの美しさと、アコースティック・ギターの哀愁を帯びた音色がそこはかとない悲しみを漂わせ、苛まされた心の暗闇が痛切に奏でられる。狂信的な響きを持つ"ズー・タイム"では力強いドラミングと荒れ狂ったノイズ・ギターが炸裂し、"アラス・アグネス"は叙情溢れる壮大なスケールで詩と音楽を見事に融合させている。
全12曲、作品全体の骨組みは職人的な高い演奏力で固められ、豊かな独創性と普遍的なポップスの要素も併せ持つ贅沢な楽曲の魅力がぎっしり詰まった充実の1枚である。ガラクタをも楽器に変えてしまう斬新な発想と、独自の音楽的精神が沸点を迎えた時、行き着く先は一体どこなのか。表現者としての知能的な企みと、音楽を紡ぐ事の素直な喜びと興奮を絶やさずに今後彼らがどんな発展を遂げるか、非常に楽しみだ。
reviewed by kaori
|
|
|