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吟遊詩人然とした卓越した演奏力と、歌う以上に物語る声。音の職人エルボーの通算3作"リーダーズ・オヴ・ザ・フリー・ワールド"は彼らの美しき叙情性が燦然と輝き、希望と幸福を喚起させる優しさに満ち溢れている。
暗いトンネルを抜けて目の前に開かれた光のような瑞々しい"ステーション・アプローチ"、パーカッションとベースの躍動するイントロから、サビの高揚まで心に波打つ"フォーゲット・マイセルフ"、胸を突くメロディーに、表現力豊かな声が追い打ちをかける"ザ・ストップ"、囁くように歌い上げるボーカルが柔らかなピアノの音色に映える"アン・イマジンド・アフェア"、主旋律を担うギターと手拍子がテンポを盛り上げる"メキシカン・スタンドアウト"、センティメンタルな響きがくぐもった声を覆い、ほろ苦い調べの"ジ・エヴリウェア"、弦楽器とコーラスが美しい層を成したスケールの大きな"マイ・ベリー・ベスト"、ギターのアルペジオとピアノに導かれ、徐々に高みまで儚げに歌が舞う、哀切漂う"グレート・エクスペクテーションズ"。
個々の曲の熟成度が増したばかりでなく、アルバム全編を彩る物語性は、まるで音楽を通して詩集が紡がれているかのごとき錯覚を聴く者に与える。内省的で絶望から這い出る術を見つけようと必死にもがいていた様な前2作から、今回は外に向かって自らをさらし、幸せとは、実は自らの心の奥底から根付くものであるという真実に辿り着いたとでもいうべき清々しさを放っている。
時代が彼らを見過ごしているのは、彼らが必要とされていないからではなく、彼らがそれを必要としないから。紐解けば、いつでも温もりに包まれた限りなくエルボーであり、エルボーにしかない極上の音楽が、ここにある。
reviewed by kaori
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