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開催期間の折り返しの頃、そしてフジロック終了2日目。オフシーズンの兼六園(「雪の…」という言葉を耳にする)に、『FUJI ROCK´05』のTシャツ、リストバンド。予報では曇り後雨だったのに、陽光は強烈に照り返し、緑をより鮮やかにする。
『拘束のドローイング』シリーズの展示は地上で、『拘束のドローイング9(以下9)』の上映は地下で行われていた。
開始40分程前に受付で、通常どの辺に入場者は列を作るのか尋ねてみると、キョトンとした顔をされてしまった。どうやらこの作品が一般公開されて初の、上映前に長い列の出来た日だった。
「何これ」というのも、繋がり方が何処か素人っぽく感じられるのも、多くの人の評を読んで『クレマスター・サイクル』からの特徴で、技量不足ではなくマシュー・バーニーの作風と知る。それに対し、スクリーンに収まった一つ一つの絵の見事なこと!日新丸の船員(役者ではなく本物)まで当然のように作中の人となる。
彼の人気を侮っていた為見逃した、『クレマスター』のスチールにある世界はカラフルだ。それは西洋の色、神話の色。アート・リンゼイとのコラボレーションから出来た『デ・ラマ・ラミナ』はブラジルの土着的な色、そして今作は日本の色彩を見事に写している。作者のフィルター越しのそれだが、日本の力強い海の、人の、物の色だ。全ての物質―鉱物までも生を持って描かれる。アミニズムの思想を持つこの国以外ではどう捉えられるのか知りたくなった。
金沢21世紀美術館は、一見小さい。展示スペースを周りながら、その敷地の意外な広さに驚かされる。
宿泊先の新聞に今回の展示が書かれているというので見せてもらうと、『北國新聞』に取り上げられていたのは『人体の不思議展』だった。おかげか、『拘束のドローイング』も幅広い年齢の人々が多く訪れてきていた。とはいえ、普段から客層を大人に絞っていないのは、渡されたプリントからも分かる。
『9』のテーマである捕鯨より鯨、度々大量に登場する(展示品にも本物がむき出しで使用されている)海老達に分かりやすい言葉で説明をさせている。龍涎香をキャラクター化するのはちょっとと思うけれど…。
ゴムで縛られながら描く初期のシリーズ、自分の尻尾を追い回すサテュロス…。笑いながら「分からん」を繰り返す子達、『人体の不思議展』から流れてきた知ったかぶりのオバサマに鋭い指摘をする小学生。現代美術の展示でこれだけの子供を見掛けるのは初めてで興味深かった。
「コンセプチュアル・アート」であっても成熟した大人だけの物ではないし(大体日本に成熟した人間がどれ程いるというのか)、対象に興味を持ったなら、人は何かしらを感じ取るし、どこかに記憶するのだ。
しかし『9』は年齢制限があった。当然のこと。生きる上で、「食う」という行為は、あらゆる営みの中でも壮絶なものだ。自らの生命を維持する為には、何かを犠牲にしなければならない。
政治的な意味をマシュー・バーニーはこの作品に込めていない。しかし、彼が惹き付けられたように捕鯨文化は素晴らしいものだ。世代的に日本=鯨という刷り込みがあったのかは定かではないが、どれだけリサーチに力を入れたか良く分かる。知能が高いから…、それなら、植物にも感情はあると言われる。突き詰めていけば人は何も口になど出来なくなる。
映像のスケールは大きい。この為に作られた長崎の出島、ストーリーの出発地となった巨大サイロの並ぶ発電所、日新丸、大海原。重要な役割を担うワセリンも膨大な量だ。
船を訪れる「客」であるバーニー、そしてビョーク。彼の眼線に時折「?」が浮かび、彼女の手掛ける劇的な音楽に「ここでそうくるのか」と思う。それはくすぐったくも気持ちの良いズレだ。二人はわずかな時間の間に恋に落ち、荒れ狂う海に揺れる船内で、メタモルフォーゼに向け切り合う。その儀式は、単に衝撃的で片付けられないエネルギーを持ち、流れ出したワセリンは、嵐の海のスケールになる。
『8』まで、肉体を誇示すると同時にどこか自虐的だったこのシリーズは、ビョークによって外へ向かった。表現の幅を広げる為新しい方法を模索する二人のアーティスト。ここ数年「女神」「女王」といったイメージの強かったビョークが、人の求めるものに全力で答える優れた職人であり、スクリーン上ではシャイな面持ちのバーニーと心身共に寄り添っているのが感じられた。
ちなみにわたしの隣、そのまた隣も、それぞれ別々に訪れたフジロック帰りの人だった(わたしは今回不参加)。
本当に限られた場所のみでの上映になる彼の作品が、金沢という場所を発端として生まれた事が誇らしくもあり、また、東京で全てを目にする事が出来ないと言うのが悔しく、足を運んだ。
マシュー・バーニーとビョーク、この展示を目にした日本のアーティストとその卵達の今後を思った。そしてあれだけの人数をスクリーン前に呼び寄せていたのは、フジロックだった。
あの日一緒になった方々、またいつかフジロックで。
reviewed by chihiro
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