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ポップ職人
職人という言葉を音楽で使うと、派手さはないけど、常に高い水準で作品を出している人というイメージが浮かび上がる。このグレン・ティルブルックの『The Incomplete Glenn Tilbrook』を聴いているときに頭に浮かんだのが、この「職人」だった。ネオ・アコースティック、ギターポップ、ブリットポップが好きな人は、まず間違いなく気に入るだろうと思う。キャッチーなメロディと、ときにシンプルに、ときに凝ったアレンジでいながら、ポップであることからは、いささかもブレていない傑作なんである。
グレン・ティルブルックという人は、スクイーズというバンドでパンク/ニューウェーブの時期にイギリスでデビューして、エルビス・コステロも共同プロデュースで関わった4作目のアルバム『east side story』(名作!)がアメリカでもヒットしたが、解散や再結成を繰り返し、メガセールスとは無縁の通好みポジションに落ち着く。それでも、日本では1年位前にCMで"Tempted"が使われたりして根強い支持があるのだ。
このアルバムは彼のソロ1作目である。エイミー・マンやロン・セクスミスが参加しているのだけど、何をやっているかといえば、なんと作詞だけなのだ。このソングライターとして一流である2人を敢えて作詞だけさせるというのは、それだけメロディ職人としての矜持であるし、例えれば、イチローや松井を代打要員にするというような贅沢な感じである。
曲調は、王道ポップから、アコースティックとストリングスが美しいバラード、ピアノの弾き語り、ピコピコなエレポップまで、バラエティが広いのだけど、変わらないのはグレン・ティルブルックの優しい声と極上のメロディなんである。聴いていると、アズテック・カメラ、
クラウデッド・ハウス、ティーンエイジ・ファンクラブ、KEANEが好きな人にオススメじゃないかと思った。メロディがちゃんとあって、声が優しい感じで、日常と共にあるようなポップ。言うまでもなく、そんなポップの底にはビートルズ愛が流れている。歌詞の世界も、ユーモアあり、悲しみあり、励ましあり、こんがらがった恋愛ありなんだけど、特に面白かったのは"Interviewing Randy Newman "という曲で、ランディ・ニューマンにインタビューしたときのことを歌にしている。ランディ・ニューマンのことが大好きなグレンがBBCラジオ2のランディ特集のためにインタビューをした「緊張して頭が真っ白になって上手くいかなかったけど、生放送じゃなかったからホッとしたよ、だって編集したら良いインタビューだったように思えたから」という話である。この手の話は、とても他人事とは思えない。インタビューって難しい。それにしても、ここまで同業者についてリスペクトを表明した曲ってあるのだろうか。「彼の新作『バッド・ラヴ』は手に入れるべきだよ」という歌詞まであるのだ。
地に足をつけた職人的なポップにマッタリと染み入ることができる。と、思ったらライヴの彼は熱い男になるらしい。文字通り熱唱で、セットリストが存在せず、その場その場の状況で変っていくとのこと。とは言え、スクイーズの名曲が演奏されることが多いらしくて単純に嬉しい。そんなライヴの様子はドキュメンタリー映画があり(今年の年末にDVDが出るらしい)、8月の来日公演に合わせて上映も行われるようだ。そんな姿を確かめよう。
ツアー日程 (8月6、7日は前売りチケットは売り切れの様子)
8/1(Mon) 広島 IRISH PUB SPUD'S
8/2(Tue) 南堀江 KNAVE
8/3(Wed) 金沢 もっきりや
8/4(Thu) 名古屋Paradise Cafe 21
8/6 (Sat), 7 (Sun) & 8(Mon) 吉祥寺 STAR PINE'S CAFE
日本語サイト(招聘元のサイト)
http://www.mplant.com/glenn.html
reviewed by nob
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