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何度でも語るぞ、あの瞬間を忘れない
思い出してもゾクゾクする。周辺にいる仲間は、同じ話を何度も聞いたと思うし、Magでも書いた。ひょっとすると、「またかよぉ」なんて言われそうだ。でも、これからだって何度でも繰り返して口にすることになると思うし、おそらく、このことは死ぬまで忘れないだろう、至福の時が昨年のフジ・ロック・フェスティヴァルは、オレンジ・コートで体験したThe Blind Boys of Alabamaだった。
1曲目はジ・インプレッションズってよりは、今は亡きソウル界の巨人、カーティス・メイフィールドが生み出した名曲『People Get Ready』だったと思うんだが、それだけでも、身体がジ〜ンとして、ブルブルっとする、とんでもない感動の予兆がでていたのに、それに輪をかけたのがそのあと。なんの前触れもなく、(全然知らなかった)Ben Harperと彼のバンド、The Innocent Criminalsのパーカッション、リオン・モブリーがステージに登場して、歌い出したのが、The Blind Boys of Alabamaのアルバム『Higher Ground』に収録されている"I Shall Not Walk Alone"。それまではちょっと後方で見ていたんだが、彼が登場するや、自分を押さえられなくなって下手の一番前、柵のところまででていって、大騒ぎをしながら涙を流していた。幸せな顔をして涙をぼろぼろ流すという醜態をさらけ出したという、その話は、あのアルバムがきっかけとなって実現した作品『There will be a light』のレヴューをここで書いたときに記しているのだが、そのプロジェクトが結実したのがこのライヴだ。
それが悪いはずがない。Ben Harper & The Innocent Criminalsのライヴも、その素晴らしさは、一度でも彼らを体験した人なら十分承知のはずで、それが映像として残されているのが『Live at the Hollywood Bowl(US import / 国内盤)』(ちなみに、US importはリージョン・フリーで日本語の字幕付き!)。これも、鳥肌ものだった。彼らがバックを演奏して、『There will be a light』をそのまま形にしたというか... それを幾倍にもエキサイティングにしているのが今回のライヴDVDだ。
なにせ会場となっているのは伝統のアポロ劇場。ゴスペル、ソウル、ジャズ...黒人音楽(って言い方って、あまり好きじゃないんだけど)を語るときに、欠かすことのできないここ、そう、ビリー・ホリデーからエラ・フィッツジェラルドといった人たちが演奏してきた会場でのライヴ。「ニューヨークに来て、ここで演奏しないなんてあり得ないなぁ」とベンが口にして、「ここで、もちろん、やったことがあるんだろう?」とブラインド・ボーイズの面々に尋ねるシーンがあるんだが、そこででてくる台詞が面白い。「ウン、あるよ。40年前」ときた。なにせ、The Blind Boys of Alabamaが生まれたのは1939年。その歴史は、すでに親父と化した筆者の年齢を遙かに越えているのだ。そんな本物をゴスペル・グループと全編にわたって共演しているのが嬉しい。
ちなみに、それを聞いたベンは「4、0?1、4じゃなくて」と聞き返している。fourteenとfortyの発音がにているものだから、なんだろうけど、実をいうと、このDVDにはバック・ステージの様子が収録されていて、階段の壁に貼られたBlind Boysの写真を見て「若いぁ」なんて口にしているわけで、これはウケねらいなんだろうなぁと思ってみたり...
それはともかく、ベンをフロントにBlind Boysが控えるといった構成ではあるんだけど、(実際問題、このところのベンの人気ってけっこうすさまじいものがあるから当然だろうとは思う)だからといって、ベンが彼らをバックにしているなんてやっかみはなし。逆に、彼らに対する尊敬の念というか、そんな気持ちが端々に見えるし、同じように、彼らの存在によって、そして、その歌声とソウルの素晴らしさにベンが触発されて、これまた素晴らしい歌を聴かせてくれる。その迫力といったら... 血管が切れそうなまでのソウルを感じさせるというか、とてつもない勢いで迫ってくるのだ。
同じように、この若者に触発されたのか、あるいは、「本物」の迫力か、Blind Boysの面々もすさまじい。もう歌い出した瞬間に「すげぇ〜」としかいいようのないゴスペルの神髄を聞かされたような感覚に陥って、あれほどまでに素晴らしいベンまでがかすんでしまうようにも見えるのだ。もちろん、それに対して、また一段とソウルを込めてベンが歌い出す。音楽のコミュニケーションによって両者がゴスペルの神髄に迫っていっているといえばいいのかもしれない。
『There will be a light』の全曲が演奏され、当然『Higher Ground』の"I Shall Not Walk Alone"も歌われているし、実のところ、この曲で再び、フジ・ロックのあの瞬間を思い出すほどに身震いしてしまうのだが、おそらく、それは曲の完成度のせいでもあるんじゃないかと想像する。また、そのほかに、『The Will to Live』に収録されている"I Want To Be Ready"が演奏されているんだが、オリジナルとは全く違った、強力なヴァージョンで響いてくるのが嬉しい。
圧巻なのはラスト。フジ・ロックの時もそうだったんだが、最後にジミー・カーターが「Can I talk to you!」と叫びながら、ステージを降り、とんでもない迫力でシャウトするシーンには背筋がゾクゾクする。この時ばかりは、完全に彼らこそが主役になってベンと彼のバンドは背景になっているとも言えるほど。圧倒的です。
そのライヴに加え、このDVDに収録されているのは当日のバック・ステージでの模様と、『There will be a light』を録音したときのドキュメンタリー。それほど密に作られてはいないが、録音シーンが紹介され、ベンの言葉でどんなアルバムにしたかったかといった説明がされている。US importにはフランス語、スペイン語、ドイツ語の字幕は入っているのだが、日本語はなし。当然ながら、国内盤にはこのあたりにきちんと字幕が付けられているはずなので、そちらが欲しい人は発売日の5/25までにamazonで予約するとかなり安く買えるはずだ。(たいてい、発売日が過ぎると値段が戻るようです)
ちなみに、この時、ステージに立っていたThe Blind Boy、George Scottは今年の3月9日に他界。(その時のニュース原稿はこちら)彼にとって最後のアルバムとなった『Atom Bomb』が発表された日に葬儀が開かれている。そんな意味でもこの映像は貴重だ。特に、"Take My Hand"で、彼のリード・ヴォーカルが披露されているシーンを見て、これが見納めなんだとの感慨を持ってしまった。実に残念だ。
reviewed by hanasan
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