モーガン・スパーロック監督

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明るくシリアスに人体実験 

 どんな映画かは公式サイト監督のインタビューあらすじを見てもらうとして、要するにこの映画を観た後でマクドナルドでハンバーガーが食えるかっていうことである。自分は多分食えると思う。ただ、自分は普段からそんなにファーストフードでハンバーガーを食べない(牛丼屋は行くけど)ない。自分がよく行ってたのは、地方都市を車に乗って営業していたときとか、外国旅行に行ったときくらいだし、行くにしても、待ち合わせに使うくらいだから、なくなってもそんなに困んない。確かに、この映画を観た後でマクドナルドに足が向くのか向かないのか、という踏絵にはなる。でも、これを観て「マクドナルドには絶対に行かない」という人は単純すぎると思う。自分は絶対に行かないことはない。考えるきっかけになるけれども。

 いわゆるマイケル・ムーア以降の笑いとシリアスが入り混じったドキュメンタリー映画という位置づけになるんだろう。実際、終盤でマクドナルドの重役にアポを取ろうとして会えないという箇所は『ロジャー&ミー』そのまんまだ。少ない元手で体を張ったおもしろ人体実験、『JACKASS』のSteve-Oがゲテモノ喰って吐きまくるみたいなノリで観ることも出来る…なんて書いてみたけど、やっぱりアメリカの食品産業の問題という真面目なメッセージがあるから、ちょっと違うか、でも、ハンバーガーを喰っているときの監督にして被験者のモーガン・スパーロックの表情には、明らかにゲテモノを旨そうに喰おうという悪趣味さが漂っている。そして、何よりも演出と登場人物が良い。映画の最初の方で「自分が実験台になる」と宣言するとQUEENの"Fat Bottomed Girls":が流れ、街を歩くデブの女の子たちに切り替わるあたりなんか最高なんである。そしてスパーロックの美人の彼女は「実験を始めてから彼のペニスが柔らかくなって、私が上になってしないとダメなの」と語るし、実験に協力する栄養士も美人だし、実験をやめるように警告する内科の医師の方が不健康そうだし、アメリカの肥満人口の増加に警鐘を鳴らす当の本人がデブとか、魅力的な人物が次々と出てくる。

 だけど、こうしたドキュメンタリー映画というのは、斜めから観ないといけないわけで、観ているとずいぶんと引っかかるところがある。まずは、監督であるスパーロックは、元々いい暮らしをしていたのではないか?ということである。ベジタリアン・シェフの彼女を持ち、酒もタバコ(かつてはやっていた)もドラッグもせず、歩く機会が多いニューヨーカーで(日本でもそうだけど、都市生活者の方が地方在住者より足を使う機会ははるかに多い)、明らかにジムに通ってるような体力を持つアメリカの中産階級的な暮らしぶりで、普段はジャンクフードを食べなさそうな人である。そういう人なわけだから、実験3日目に食ったものを吐いてしまうけど、それは食い慣れてないせいもあるだろうし、「俺は悪いもん喰ってるよー」という精神的な作用もあるんじゃないかと思う。食い慣れている人だと体の反応が違うと思う。だから実験の後半で検査の数値が悪くなって、「命の危険がある」と警告されるんだけど、ちょっと大げさなんじゃないかなぁと感じる。だって世の中には酒、タバコ、ドラッグのやりすぎでもっと不健康な人は、自分の身の回りも含めて(ドラッグはいませんが)、一杯いるような気がする。

 それにしても、この映画に出てきて肥満撲滅を訴える人たちの健康指向というか脅迫観念まで高められた健康への意思は恐ろしいものがある。登場人物で「喫煙を注意出来るように、肥満を注意したい」という人がいるけど、もはや健康ファシズムである。ナチスドイツが健康政策に熱心(「健康は義務である!」)だったことから分かるように健康の強制は自ずとファシズム的なものを孕んでいる。「勝手にさせてくれ」「不健康になる権利だってあるんじゃないか」と言いたくもなる。特に酒、タバコ、ドラッグが好きな人は、この映画に出て来て肥満撲滅を訴える人に、ファシズムの匂いを嗅ぎ取るんじゃないかと思う。  もちろん監督本人は皆がスリムで健康になり、他人のライフスタイルに介入してまで健康であることを強制する社会を望んでいるわけじゃないだろう。この映画の本題は、アメリカの食品産業の問題点であり、教育現場の荒廃であり、貧富の差が拡大し、貧しい人に不健康を押し付けて企業が栄え、それが世界中に拡大するのは良いのかという問いである。マクドナルドのマーケティング戦略のように幼児の頃から刷り込みを行い、学校では保健・体育の時間が削られて給食にジャンクフード業者が入り込み、インターネットにもつなげられない貧乏人には栄養の偏りについての情報が与えられずファーストフードが主食になってしまうという現状を明らかにしていく。体に良いのか悪いのか、自分で取捨選択するための情報が誰にでも与えられるようにしろ、ということである。この映画に対しての答えは、食品産業は栄養のバランスのあるものを開発しろ、栄養についての情報を明らかにしろ、消費者一人一人は自分の健康に気を付けてるようにしよう、ということなんだけど、そんな簡単にいくのだろうか。仮にアメリカ国内で健康が達成されても、アメリカのタバコ産業が欧米以外の発展途上国のマーケティングに力を注いでいるように、悲惨な状況が海外に移るだけかも知れない。アメリカの貧富の差が簡単に解消されるとは思わないし、状況は悪くなる一方ではないか。

 ちなみに、この映画では「ファーストフードを毎日大量に食うのは、酒浸りと同じだ」と言ってるのであって、毎日酒飲んでるヘビースモーカーがこの映画を観て「ファーストフードは体に悪い」と鬼の首を取ったように言うのはダメです。逆に言えば、毎日酒をたくさん飲んでいる人は「毎日ファーストフードを喰っているのと同じ」なんである。


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