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世の中に名曲「サマータイム」をカヴァーした人は数知れない。ロックの世界の有名どころとして、おそらく、誰もが名前を挙げるのがジャニス・ジョプリン。名盤『Cheap Thrills』に入っているこれは、確かにとんでもなく素晴らしい。いやぁ、確かに、これは泣ける。
でもって、ジャズの世界に入っていけば、もう、きりがない。スタンダードを演奏する人間がありとあらゆるヴァージョンと作り上げている。おそらく、レゲエの世界でも数ヴァージョンあると思うし、自分自身、数年前にサンドラ・クロスと一緒に作ったジャズ・レゲエのアルバム『JUST A DREAM』に、実は、2ヴァージョンも収録している。多くの人が気づかないままでいるんだが、本編で収録されているもの(これは、バラードっぽい演奏)の他に、最後の曲が終わって10分の空白の後、ちょとスカっぽいヴァージョンが飛び出してくる。なにせ、これこそ、シークレット・トラック。なにも表示していないので、このヴァージョンが出てくる前にプレイヤーからアルバムを出してしまうようだ。
それはさておき、それほどまでにカヴァーされたスタンダード中のスタンダードがこの曲なんだが、これまでの人生でこれほどまでに感動した究極のヴァージョンはないと断言してしまうのが、このサックス奏者、アルバート・アイラーの『サマータイム』だ。インストゥルメンタルで歌ものではないんだけど、彼のサックスがまるでうめき声を上げるように語りかけて来るというとんでもない代物。陳腐なサックス教則宣伝のキャッチ・コピーで『サックスで女を泣かせる』という、『なんとかしろ、このぉ!』と殴ってやりたいようなものを昔よく目にしたんだが、アイラーのサックスは文字通り、血まみれになって泣いているような、身体をボロボロにしながら、まるで最終ラウンドの『あしたのジョー』のように演奏しているように聞こえるのだ。
ところが、このアルバム・タイトルにあるように、自らの声でそれまでの人生を語りかけているイントロダクションが登場するのだが、その声といったら... ものすごく甘く、子供のようでもある。このギャップっていったいなんだろう... このアルバムを聞くに付けて、そう思ってしまう。
ちなみに、いつだったか、音楽業界の友人を自宅に呼んで鍋をやった時、「え、聞いたことがないの?」といわれて、いつも通り即席DJで、いろんなものを聞かせながら、これもターンテーブルに載せたんだが、これで涙を流してしまった人がいた。当然だ。これほど聞くものを圧倒する演奏が生まれることはないだろう.... と、言い切っても、全然後悔しない自信のある究極の『サマータイム』がこれなのだ。
録音されたのは63年。この時、バックで演奏していたベーシスト、ペデルセンは16歳前後。とんでもねぇ! そして、アイラーは27前後。この7年後に彼の死体がハドソン川に浮かぶことになるのだが、それまでに完全に燃え尽きてしまったのが彼のジャズ。ソウル・フラワー・ユニオンの中川君がライヴの始まりに流す名曲『ゴースト』はこのしばらく後に録音されているのだが、これから彼がとんでもなくフリーなジャズの世界に入っていくことを、必然として感じられることができる。ストレートアヘッドなジャズからフリーへのブリッジとして、その瞬間をドキュメントしたようなこのアルバムは死ぬまで手放すことはできないだろう。
いわゆるフリー・ジャズだとか、ジャズの伝説は数多い。コルトレーンやエリック・ドルフィー、マイルス・デイヴィス... が、アイラーを越えるアーティストに僕はまだであったことがない。
それにしても、こういった名作がなんで入手不可能になっているのか...せめて、このアルバムや『Ghost』ぐらいは簡単に手に入らないものかねぇ。
reviewed by hanasan
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