永江 朗(著)

『インタビュー術!』
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インタビューは難しい
インタビューは難しい。自分はフジロッカーズorgやSmashing magでインタビューを始めてから何回もインタビューしているけど、何回やってもインタビューは難しいと思う。文字にするために録音を聞き返してみると「あー何でここを突っ込まないんだ!」とか「話題の変えかたが不自然だろ!」とか「もっと適切な質問しろよ!相手が困ってるだろ!」とか「こんなに沈黙を作るなよ!」など反省点が多かったりする。orgはフジロックがテーマだから質問の作り方が比較的楽だし、magは好きなバンドが相手だから聞きたいことがいっぱいある。だけど、出来上がった原稿に完全に満足したことはない。しかもインタビューのやり方を誰に教わったこともなく、自己流でやっているため、これでいいのだろうかという不安がついてまわる。
永江朗『インタビュー術!』はインタビューのやり方を実例を交えながら紹介していく。心構えはもちろんのこと、場所、服装、録音機材などの具体的なノウハウは役に立つ。しかし、この本が面白いところは、AV女優、作家、学者、大企業の経営者、ミュージシャン、アイドルなどさまざまな人にインタビューをして場数を踏んでいる著者でさえ「インタビューに出掛けるときは気が重い」「会うのが二度目、三度目の人でも、やっぱり緊張する」といっているところだ。他にも「難しい」「不安だ」「悩む」なんていう言葉がわりと出てくる。こんな人でも迷うところがあり、つまりはインタビューに正解はなく、何年やっても試行錯誤なんだということを教えてくれる。もちろん、著者が本当にインタビューに出掛けるときに、大物相手ならそうかも知れないが、毎回毎回気が重くなっているかどうかは分からない。重要なのは、それよりも著者がそう書くことによって生まれる効果である。この本を手に取る人は、駆け出しのライターかライター志望かインタビューそのものに興味がある人、それから著者の仕事をチェックしていた人だろうけど、メインのお客さんは真剣にアドバイスを欲しいライター予備軍だろう。そういう人たちに「これさえやれば大丈夫」「おれはこれをやって成功している」的な物言いよりも、著者のように具体的な失敗や迷いから語る方が伝わるのだと著者は考えたのかも知れない。
もうひとつ面白いのは「第三章:インタビューをこう読め」という章で、数々の名インタビューが取り上げられていて、例えば山際淳司の「江夏の21球」(『スローカーブを、もう一球』に所収)をインタビューの集積として読むのは目からウロコだったりする。インタビュー作品の裏側を考えながら読むというのは、インタビューをしている現場、そのインタビューを活字に直していく作業を想像していくことなんだけども、それは第一章、第二章で現場に即したエピソードを読んだ人なら第三章がすんなりと頭に入っていくようになっている。まあ、村上春樹『アンダーグラウンド』の評価に関してはちょっと違うかなと思うところもあるけど、インタビュー作品の裏側を考えるのは参考になる。
『ロッキンオン・ジャパン』の二万字インタビューの長さや吉行淳之介の堂々たる態度が羨ましいと正直に書くところが著者の苦労が偲ばれる。音楽ネタも多いし、何よりも文章は平易で読みやすい。このサイトを見ているような人にはうってつけだし、インタビューにまつわるさまざまなことを考えさせられる。ライター志望の人はもちろんのこと、広報や営業なんかのインタビュー的な部分のある仕事に関わっている人なら是非とも読んで欲しい本である。
reviewed by nob
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