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なんと8年ぶりの新作となるのが今回紹介する『High』というアルバム。実をいうと、このアルバムが発売されているというのを偶然発見したときの第一声というか、頭によぎった言葉は「まだやっていたんだ...」というものだった。なにせ8年ぶりだ。そう思ったところで、おかしくもないだろう。
でも、振り返ってみると、前のアルバム『Peace At Last』が発表されたときも、同じようなことを思った記憶がある。実は、あのアルバムも7年ぶりの新作ということで、「そうかぁ、彼らまだいたんだ」というのが一般的な印象だったように覚えている。
実際のところ、Blue Nileに本格的にはまったのはその名作、『Peace At Last』からなのだが、このバンド、とてつもなくのんびりしているというか... デビューしたのが81年で、そのときに発表した『A Walk Across the Rooftops』からセカンド・アルバム『Hats』が登場するまでにも5年がかかっている。ということは、81年のデビューから23年で4枚しかアルバムを発表していないというわけで、左に並べたアルバムがそのすべてということになる。寡作というのもはばかられるほどにマイペースで活動を続けている、非常にまれなバンドなのだ。ひょっとして「やる気」がないのか、「成功」だとかといった世俗の戯言にはまるで関心がないのか、世捨て人が集まっているのではないかとも思わせるほどに動きがスローなのだ。
ライヴの情報もほとんどないし、『Peace At Last』が発表された年だったと思うが、グラストンバリー・フェスティヴァルで演奏していたのを聞いたことはある。といっても、演奏している姿は見てはいない。フェスティヴァルに行くと怠け者になるというか、あまりに気持ちよくて何もする気がなくなるっていうのか... 昼寝をしながらテントの中で彼らの演奏を耳にしていたんだが、まどろんだ状態で彼らを聞くとあまりに心地よく、そのまま天国まで連れて行かれそうな気分になったというのがホントのところ。ちょうどその頃、来日も決まったのだが、あまりにチケットが売れなくて中止になったという噂もある。今思えば、無理をしても見ていればよかったなぁという感じで、ほとんどライヴ活動もしていないという話も聞いている。
バンドはスコットランドのグラズゴウをベースにしていて、中心となるのはポール・ブキャナン。ヴォーカルで詩も書いているのがこの人物で、彼と共にロバート・ベルとポール・ジョセフ・ムーアの3人がブルーナイルを構成しているのだが、エンジニアとしてクレジットされているカラム・マルコムもデビュー・アルバム以来のつきあいで実際にキーボードなども演奏しているようで、メンバー同然ではないかと思われる。
前述のように、いるのかいないのかもわからないようなペースでアルバムを発表するようなバンドで、しかも、大ヒット曲もない。下手をすれば忘れ去られてもいいはずなのに、それでもデビュー以来熱狂的なフォロワーを生んでいるのが面白い。これぞカルト的といわれるにふさわしいバンドで、リッキー・リー・ジョーンズが彼らの大ファンで一緒にツアーしたとか、いわゆるミュージシャンズ・ミュージシャンを絵に描いたような人たちだ。
その顔となるポール・ブキャナンの声は、どこか切なく... それでいて、聞くものを包み込んでしまうようなほのかな暖かさと足を地につけたような説得力も持っている。その声が、もやぁっとした霧のなかにいるような音の奥からくっきりと浮き上がってくるという感じかなぁ。前回のアルバムではギターも前面に押し出すようにしてかなり使っていたんだけど、今回は押さえ気味で、あのアルバムのような派手さはない。といっても、そんなに派手というほどではないんだが、8年前の作品では、どこかにきらきらした輝きも感じていたものだ。彼らの年齢はわからないが、おそらく、あの頃は30代半ばだったんじゃないのかなぁ、だから、『Peace At Last』(やっと平安が訪れたという意味)というタイトルのアルバムが生まれたように想像してしまうのだ。
おそらく、今は40代じゃないだろうか、今回のアルバムには枯れた味わいさえをも感じさせるような響きを持っている。音を紡ぎ出したとでもいえそうな柔らかい絨毯のようなぬくもりのあるサウンドは相変わらずで、基本的なBlue Nileサウンドは何も変わっていないし、彼らのアルバムに親しんだものであれば、一聴すれば「彼らが帰ってきた」とわかるはずだ。ただ、どこかに充分に大人になった彼らの視線を感じるのだ。酸いも甘いもかみ分けた人間のまなざしといってもいいのかもしれない。そのまなざしんは、暖かく、優しさに溢れているのだが、どこかに悲しみも感じさせているのが前作との違いだろうか。
おそらく、今回のアルバムも大ヒットを記録することはないんだろうなと思う。でも、当の本人たちはそんなこと、気にもかけてはいないんじゃないだろうか。本当に歌いたいことを歌い、本当に歌ができたときにそれを形にする... そして、何年もかけて熟成された音楽や歌を、そぉっと形にして懐かしい便りのように届けてくれる。それでも、彼らの存在を忘れることなく、思い出したかのように求める人たちがいる。それだけのことなのかもしれない。
それでも、彼らの歌はひっそりと記憶に残っていく。このアルバムを手にして8年も前の前作を思い出したように、けっしてヒットすることはなかった名作の名曲が頭のなかを流れたように、また、新しい名曲が記憶のどこかにひっそりと残されるんだろうと思う。1度聞いただけで、メロディが焼き付いてしまったアルバム最後の曲「Stay Close」。7分半の曲をラジオでは流してくれないだろうから、この曲が多くの人に伝わることはないだろう。が、本当に穏やかな人の心をいやしてくれる音楽を求めている人にはこのアルバム、そして、Blue Nileを勧めたいと思う。
reviewed by hanasan
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