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Magで始めたコラムの原稿、いかすぜ、マイトガイ、小林旭でもちらりと書いたのだが、かなり毛色の変わったアルバム・コレクションというか、宝物のようなアルバムの1枚が今回紹介する石原裕次郎の『NOSTALGIA』。初めての出会いは、10年ほど前に通っていた横浜は野毛町にあるバー、パパ・ジョンで、ここの親父に「誰かわかるか?」といって聞かされたのがこれだった。
アルバムのド頭は英語で「OK, Love Letters、take1...1、2、3」なんて感じで始まって、なにかを間違ったんだろう、わっはっはという笑い声が聞こえてくる。そして、「Love Letters、take2...」と、どこかのラウンジにでもいるような感じのムーディなピアノが聞こえてきて、ちょっと甘いヴォーカルが流れ出してくる...
確かあのときは... 「これ、裕次郎じゃないか?」と、このアルバムの主を言い当てたように思うんだが、その経験を通じてこのアルバムに惚れ込んでしまった。そして、あらゆる店を探し回って手にしたのが金のコーティングをした、今じゃ、レア・アイテム化したCDだった。よくもまぁ4000円も支払ったなぁと思うんだが、幾度となく聞き狂ったんだから、もう充分に元は取れているだろう。
ところが、先日、友部正人さん(最近のライヴはこちらでご確認を)と一緒にこの店に飲みに行ったとき、「いやぁ、実は、amazon.co.jpでチェックしていたら、ナレーション入りってのがあったんだけど...」とパパ・ジョンに話すと、「いや、実は、俺の持っているものも復刻版のアナログで、あれがオリジナルらしいよ」ということになった。
そんな話を聞くと、『High Fidelity』(ジョン・キューザックの映画です)に登場する音楽オタクまんまの筆者は、単純に「聞きたい」と思ってしまうのさ。で、アルバムを持っているのに、また、買ってしまうわけです。だって、違うヴァージョンじゃないですか?好きなアーティストの作品だったら、聞いてみたいと思うでしょ?
そうしたら、これもいい。なぜこのアルバムが生まれたかというのが、あるいは、裕次郎がいかに『写真(昔は映画のことを写真といっていた。おそらく、活動写真からきていると思うんだが)』好きだったかというのが手に取るようにわかるのだ。今ではジャズ・スタンダード集といった色彩のある響きをこのアルバムは与えてくれるのだが、選曲されているのはすべて映画音楽。あるいは、映画で使われていた曲の数々だ。その1曲1曲について、あるいは、このレコーディングに関する裕次郎の語りを曲間に挟みながら、唄が聞こえてくるという構成で、それがまんま写真のように感じられる。
どれも名作映画なんだが、例えば『カサブランカ』を16回も見て、台詞も覚えたことや、学生時代には週に20本ぐらいも映画を見ていたこと... 今なら、自宅でビデオやDVDってことになるんだろうけど、あの当時にそんなものがあるわけもなく、彼は映画館に通いながら銀幕の向こうになにかを見つけて、涙を流し、笑い、胸を締め付けられていたんだろうなぁと思う。彼の言葉にはそれが見て取れるし、映画に対するあふれ出るような愛情も感じられるのだ。
そんな裕ちゃんの気持ちが伝わったんだろう、このアルバムの解説を書いているのは今は亡き、日本が世界に誇る映画オタク、淀川長治氏。「映画が好きだったんだろうなぁ、彼の映画青春を聞く楽しさがある」と、彼のにこにこした笑顔が想像できるような文章がここにしたためられている。
ベニー・カーターやシェリー・マンといったトップ・ミュージシャンをバックに、ノスタルジックなタッチを損なわないようなアレンジで、裕次郎の声を引き立たせる彼らの演奏は脱帽もの。昭和51年に録音されたらしいんだけど、ジャズ・フュージョン全盛時に押さえた演奏をするのもの、若いミュージシャンには違和感があったんじゃないかと思う。でも、おかげで限りなく暖かいアルバムが生まれている。
酸いも甘いも知り尽くした大人の裕次郎が、とてつもない子供心を抱えながら、夢を形にしたようなこのアルバムに、文句の付けようはない。ナレーション付きは、そうした裕次郎の純な部分を共有できるような気持ちにもなれるし、どこかで一緒に映画を見たような気分にもなれる。いいよぉ!
収録曲
"Lover Letters" from 『ジェニーの肖像』
"Kiss" from 『ナイアガラ』
"As Time Goes By" from 『カサブランカ』
"Again" from 『ロードハウス』
"Mona Lisa" from 『陽のあたる場所』
"the Call of The Far Away Hills" from 『シェーン』
"Summertime In Venice" from 『旅情』
"Ruby" from 『ルビー・ジェントリー』
"The River of No Return" from 『帰らざる河』
"September Song" from 『旅愁』
reviewed by hanasan
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