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ひとときすべてを忘れて、身も心も浸して聴きたい、そんなアルバムだ。
ポルトガルの音楽といえばまず、ヴィム・ヴェンダース監督の映画『リスボン物語』(1995年)に登場するマドレデウスが思い浮かぶ。最近はアンビエントな方向に舵を傾けているマドレデウスだが、ポルトガルに古くから伝わるファドやフォルクローレのスタイルに新しい息吹を吹きかけて、はかなげな旋律と歌声の、モダンな音楽として再構築していると言えるだろう。
カティア・ゲレイロのこの2枚のアルバムで歌われているのが、ファドである。ポルトガルにおいてのファドとは、ちょうどフランスにおいてのシャンソンのように、伝統的な歌であり、民衆の歌でもある。シャンソンにエディット・ピアフという伝説の歌い手がいたように、ファドにも、アマリア・ロドリゲスという稀代の歌姫が存在した。フランス映画『過去に名を持つ愛情』(1954年)のなかでファドを歌ったことがきっかけで、世界的な名声を不動のものにした。アマリアが映画で歌った"暗いはしけ"は、シャンソンのレパートリにも入るほどだ。ポルトガルを象徴する「3つのF」。フットボールと、聖母マリアの降臨で知られる聖地ファティマと、そしてファドだ。ポルトガル語でファドは「運命」という意味でもある。
カティア・ゲレイロは、21世紀の声を聞く直前に生涯を閉じたアマリア・ロドリゲスのファドを、新しい世代に引き継ぐファディスタとして惜しみない賞賛を得ている。その歌声は、中低音域の圧倒するような艶やかな張りと、高音域では絹の擦れるような繊細さ、貫禄と瑞々しさに溢れている。まるでストラディバリウスのようだ。ファドは、ギターラ(ポルトガルギター)とクラッシクギター、ベースギター(コントラバス)のアンサンブルで紡がれる。マドレデウスやドゥルス・ポンテスのように、そこにピアノやヴァイオリン、アコーディオンを加えて新しいスタイルを積極的に取り入れるアーティストも多いが、カティアの歌はすべての曲がこの伝統的なトリオ編成で歌われる。そのこともアマリア亡き後、正統なファドの後継者と目されている理由の一つだろう。だが、なによりもいちばんの理由は、心の琴線を捉えて離さない、その歌声だ。(来日ツアーを間近に控えた彼女の歌声は、ラティーナのサイトで視聴できる)
伝統的なスタイルを貫いているとは言っても、それはなにも古典の再現を意味しない。16世紀大航海時代の詩人や、ポルトガル近代文学の最高峰フェルナンド・ペソアの詩、それに偉大なアマリアのレパートリを取り入れるのと同時に、アントニオ・ロボ・アントゥーネスやアナ・ヴィダルといった現代のポルトガルを代表する詩人や、ドゥルス・ポンテスのカヴァー曲、それにカティア自身が作詞したものや、カティアのバックを務めるギターラ奏者パウロ・ヴァレンティン、ギター奏者ジョアォン・ヴェイガが創作したものなど、新鮮な息吹に満ちあふれている。そして、噛み締めるような、喜びと悲しみ。ファドとは「運命」である。
ひとときすべてを忘れて、身も心も浸して聴きたい、そんなアルバムだ。
■ KATIA GUERREIRO JAPAN TOUR 2004 ■
9月22日---長崎・西海町総合福祉センター
9月23日---アクロス福岡シンフォニーホール
9月24日---岡山市民文化ホール
9月25日---東京国際フォーラム・ホールC
9月27日---札幌コンサートホールKitara大ホール
9月28日---新大阪メルパルクホール
ゲスト出演/マリオネットと「ファド千夜一夜」の仲間たち
9月29日---名古屋ブルーノート
9月30日---名古屋ブルーノート
総合問い合わせ:ラティーナ : TEL.03-5768-5588
reviewed by ken
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