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地球上に生きる人間の数は60億を超える。そのなかのたったひとりの人間が動いたところでなにがどう変わるというのか。焼け石に水、屁の突っ張りにもならない... と、言われることが多い。かつてアフガニスタンへの軍事力行使を止めさせようとピースウォークに誘うために友人のミュージシャンに声をかけたとき、「それで、戦争が止められるんですか」と言われたことがある。当然ながら、それで即座に戦争がを止められることはない。そして、逆に実際に戦争を止められる「力」に執着すれば、戦争でしか戦争を止められないという矛盾に突き当たる。
もちろん、それを正当化する気持ちは毛頭ないが、「沈黙すること」はどう自分の行為を正当化しようとも現状を肯定することであり、積極的に軍事力の行使を認めることに他ならない。それだけのこと。だから、意思を表明し、行動する。そして、そういった表明や行動がその軍事力行使に対して幾ばくかの圧力となればと思うし、最終的にはその機能停止に向かわせたいと考えている。
一方、どこかで「それでもなにも変わらない」ように見える現実に悲観的に思えることがないといえば嘘になるだろう。が、果たしてそうか? こんなことは幻想だといわれるのは百も承知だが、実は、そうでもない。たったひとりの人間でも物理的に動くことによって、確実にわずかな変化が自分のなかで、周辺で起きているのだ。そして、それが時にとんでもない力をもたらすことがある。思うに、4月に起きたイラクでの武装勢力による日本人人質事件やその解放に至るプロセスがそれを如実に示しているのだ。
ニュース速報で深夜にあの情報が飛び込んできたとき、当然のように友人たちにメール等で連絡を始めていた。数日後にイラクに行って戦争の被害を受けている子供たちに救援物資や医療品などを届けようとしていた友人がいたことがその理由なのだが、その流れのなかで人質となった札幌の高遠さんがその友人だけではなく、音楽関係の友人とも結びついていたことを知ることになる。
その時点で、すでに動き出していた。まずは、ヴォランティアとしての高遠さんや今井君の活動を確認。自分のなかで「なんでこんな人たちが人質にならなければいけないんだ」という疑問...というよりは、怒りにも似た気持ちが生まれ、それを彼らを拘束した人たちに伝えなければいけないと思った。そのためにどうすればいいか...彼らがチェックするだろう、まずはアラブ系のメディア、特にアルジャジーラに対して正確な情報を送ること。そのサイトを探し出し、英語版のフィードバックのフォームにメッセージを入力し始めていた。
ほぼ、時を同じくして、というか、人質事件発生の情報が入った直後から、市民運動関連のMLを通じて様々な情報が飛び込み、運動の呼びかけや声明がなだれ込んでいた。その結果がこのMagでもレポートすることになった渋谷ハチ公前での平和アピールだった。あの日、演奏できる時間帯には間に合わなかったが、川村かおりのバンド、SORROWのメンバーがギターを片手にやってきてくれたし、その数日後にはスリーピースが演奏したという話も伝わっている。(当然ながら、音楽メディアも、一般メディアも、こんなことは誰も伝えてはいない)
加えて、メールやファックスなどを通してアラブ・メディアにメッセージを送ろうという「個人的な運動」が急速な広がりをみせ、少なくともアルジャジーラが人質に関してきちんとした情報を伝え始めたことは数時間後の英語版サイトで確認できた。
実は、その時点からMLを通して、こういった無数の個人のメッセージがアラブ系メディア、ネットを通じて人質を取った武装グループに伝わり、「24時間以内に解放される」というニュースが入っていたのだ。といっても、それがスムーズに実現しなかったのは周知の事実だが、なにが問題になっていったのかを暗示させるニュースもそのMLや様々なインターネットのサイトからうかがい知ることはできた。
今回紹介するのはその模様をドキュメントした本。本当はイラク民主化運動のリーダーのひとり、リカービ氏とのインタヴューを通して、日本政府が自衛隊派兵を正当化するために彼との会談内容をでっち上げていったことを中心に書かれてあったのだが、人質事件での国際的な人間のネットワークがその解放にとてつもない力をみせ、同時に、「個々人」のつながりが政府や軍事力を遙かに越えた実効性のある力を生み出したことを伝えるために、そのドキュメントを加えて緊急出版されたものだ。
前半の一部にガチガチの「硬派」な文章の書き方を感じさせたり、それが旧態依然とした左翼的な印象を与えるのだが、MLでの情報を中心に構成された部分は実にヴィヴィッド。といっても、すでにあのMLで情報を得ていた人間にとって、それほど新しい情報がここに記されているわけではない。
ただ、一般的なマス・メディアしか知らない人間にとって、それが全く伝えることのなかった多くの事実を発見できるのは確かだ。なにせ、人質解放を難しくしていたのは日本政府で、実効性も希薄で莫大な税金を無駄にしながら、国民の命よりも大切な「国益」(そんなものあるわけないやろ)を連呼し、なにも情報がないままに人質犯を「テロリスト」を決めつけていたことがどれほどの危険を人質に与えたかがこれを読めばよくわかる。しかも、その救出にあたって、「血税」を使って遙か彼方に対策本部を作った政治家や役人が使い物にならなかったこともわかる。
おそらく、こういった書籍が出てきたとき、一方的にこういった情報を信じるのは危険だという輩も出てくるんだろう。まともに考えることができる頭脳を持っていれば、なにが本当でなにが嘘か判断できるはず。自ら判断する素材を確認することなく、そういった偏見を持つことの方が遙かに危険だろう。それに、今頃になってマスメディアによって暴露された米軍による刑務所内での虐待や虐殺の情報は市民運動やNGOなどのサイトやMLを通して周知の事実となっていた。米軍のファルージャで虐殺行為もその具体的な内容が真っ先に流れたのがこういった一般人のネットワークを基幹として生まれたメディアであり、それを後追いしたり、どこかで意図的に隠しているのがマスメディア。だからこそ、真実が姿を見せるのに時間がかかってしまうのだ。
さて、この本を読んだ人がどう受け取るか... それがどうであれ、アラブ・メディアにメッセージを送り続け、具体的な示威行動を取ろうと呼びかけた自分自身がこの本から感じるのは、個々人がつながることで「世界の動きを変えた」事実であり、それは現在も進行中だということ。いずれにせよ、すべては時がくればわかるはずだ。ただ、自ら求めなければ、永遠に理解はできないとも思う。
reviewd by hanasan
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