-P2Pという冒険-

ナップスター狂騒曲

ナップスター狂騒曲

ジョセフ・メン(著)
合原 弘子(訳)
ガリレオ翻訳チーム(訳)
ソフトバンク出版

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 P2P(ピアツーピア)ソフト、winmxやNapster(ナップスター)の「悪名」を、このサイトを閲覧している人なら一度は耳にしたことがあるだろう。耳で普段感じ取らない周波数をカットすることでCDの約10分の1にまでファイル容量を抑えられるmp3の登場で活発化してしまったファイル交換技術。便利ではあるが、CCCDの登場に一役買ったなど、やはり結果的にミュージシャンに対する背徳行為となることは否めない。

 ソフトバンク出版から出ている『ナップスター狂想曲』という本を紹介したい。P2Pブームの火付け役、そして音楽と付き合うあらゆる人たちの間で数多くの論争を引き起こし、NMEが調査した「ロック史における重大事件ベスト50」の上位にも食い込んだプログラムNapster、そしてナップスター社の誕生と転落までの過程をまとめた473ページから成る大ボリュームのこの本は、当時のシリコンバレーの事情やハッキングやネットワーク技術に関する専門的記述も多いが音楽に人生を狂わされたという自覚症状がある人間は、是非手に取ってみるといい。読んでいると「コレ...若手バンドのバイオ本?」という錯覚を起こすからだ。

 詳しい内容については省くが、もともと我々と同じ熱心な音楽ファンであった当時19歳で「イタズラ好きプログラマー」ショーン・ファニングが趣味の同じ人間達に向けて製作した革命的プログラム「napster」。そこにビジネスとしての価値を見出した人間に彼と彼のプログラムは悪用と搾取を繰り返され泥沼の裁判劇を繰り広げた末に崩壊してしまう(現在は02年に有料ダウンロードプログラムとなり形を変えて復活)。金と悪知恵が行き交う中で、音楽シェアに対してひたむきな情熱をかけるショーンの姿はまるでレコード業界に利用される不幸なアーティストのようであるし、たびたび現れる「善玉」の人間は、かつてレーベルに不満を持つアーティストだった過去からナップスターを支持するという弁護士や、サーバーマシンにお気に入りのアーティストの名前を付け、チェ・ゲバラのスクリーンセーバーを使用している若いナップスター社員など、世界的規模に議論された中心人物達とは思えないほど身近に感じて仕方が無い。もしも理解ある人間のサポートがありさえすれば、合法的サービスとして成り立つ可能性があったのかもしれない...そう思うと残念でならないものだ。

 このようにNapsterは不幸にも終幕したが、今も数多くの違法性の強いP2Pソフトウェアが存在し続けている。知られていないアーティストや入手困難な音源を「試聴」し、趣味のあった仲間とコミュニケーションを取る楽しみは、一度覚えたらなかなか…といった具合なのだろうか。特にコミュニケーションの面で言えば、世界中から接続されたユーザー同士での無数のチャットルーム、また個人間のインスタントメッセージは同じ趣味を共有している人間同士ということで、違法というダークなイメージとは裏腹に反してとてもピースフルな雰囲気で会話を楽しむことが出来るという(馴染みの集うジャズ喫茶が歌舞伎町に乱立しているようなものであろうか)。ある人間は「キューバ音楽のチャットルームで47歳のスイス人から勧められたCDは、今も自分のプレイリストの常連。他にもサニーデイサービスに夢中なカナダ人とは今でも頻繁にメールのやり取りをしてるよ。」とその魅力を語った。

 まるで、クラブのフロアでエビアンをシェアするのと同じような感覚で、今もP2Pでのファイル交換が脈々と行われている。新曲にトライしたり既発曲のライヴバージョンを聴いたりするなど、自分の耳が求めているものにいち早くたどり着くき、かつ音楽を愛する人間達とのコミュニケーションは、ユーザーにとって桃源郷にしか聞こえないからだ。誰しもが人生において一度くらいは「友情は何にも代え難い」と、気恥ずかしさを忘れて思ったことがあるだろう。特に音楽の趣味が一致した友人なんてレアな存在に違いない。しかし、そこには違法性という頑丈な足かせに阻まれている。Napsterは、元来その足かせをもフリーにすることができたかもしれないソフトを目指していたのだ。それを考えると、私は悔やまれてならないのだ。


reviewd by ryoji


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