|
ここ最近、一日に最低3回は聴いてしまう曲がある。成長した若者が幼い頃を振り返るみたいに、若々しさと懐かしさが混在するその曲を聴くと、まるで一口目のコーヒーを喉に通した時のようなため息をつきたくなるのだ。BBCが今年のブライテストホープに選んだバンド、Keane(キーン)のニューシングル『Somewhere Only We Know』にはそんな魅力が詰まっている。
ここ数年のUKロック界には「流れ」というものが存在する。毎年メロディックなバンドが交代を度々しながらも常にトップの一端を担っているというものだ、まるでそういう枠が存在するかのように。オアシス、ヴァーヴ、マニックス、一部レディオヘッドもそういうものだったし、最近ではトラビスからコールドプレイと移り変わったのも記憶に新しい。(これに関してはグラストンベリーとVフェスティバルのヘッドライナーあたりが参考になるのかもしれない。)
もしも私の推測とNMEのアンケートが正しければ、近い将来その座に着くのは、Keaneというバンドとなるに違いない。ボーカル、ピアノ、そしてドラムの3ピースという「これを果たしてロックというのか?」という編成の彼らだが、楽曲を聴けばそんな疑問はすぐに解消されるだろう。二つの楽器は驚くほどに厚みとみずみずしい音を創りだすし、何より先ほど述べたトップバンド達の系譜を継ぐ、まさにUK然としたトム・チャプリンのボーカルに勝るバンドは今のところ見当たらない。
まあ、音楽ビジネスの観点からすればそれを懸念する材料はいくつかある。まずオフィシャルサイト(http://www.keanemusic.com)の写真を観ればわかるように美形揃いとはお世辞にもいえないこと。そして何より−これはバイオグラフィにも素直に書かれているが−彼らのサウンドはコールドプレイやビューティフルサウスなど、先輩方の影響を強く感じさせることだ。
先日も人から「キーンってどんなバンド?」と聞かれ、「うーん、トラヴィスとコールドプレイ、あとレディオヘッドをバランスよく混ぜた感じかな」と説明してしまった。褒めちぎりたいはずの”Somewhere...”のピアノが印象的なイントロも、どこかで聴いたかもという思いが拭えない。
珍しいバンド形態だが、彼らの音が革新的とまでは言えない。だがしかし、彼らから生まれてくるピュアネスの結晶のような叙情的サウンドを聴いて、私はそんなことを危惧するのも馬鹿馬鹿しくなってしまった。自分の心にダイレクトに響いてくるピアノの音色と歌声は、メロディ至上主義者、そして「いいものはいい」という視点を持っている人ならば、何かを感じざるをえないはずだろう。
数々のフェスの出演とツアーを前に5月に発売されるファーストアルバム『Hopes And Fears』に、もしも日本の音楽メディアやリスナーがそっぽを向くのなら、私は今後この国を信用するものか!という気合いでいる。そんな決意は、とにかくシングル『Somewhere...』を聴いてくれれば少しは理解してもらえるかもしれない。
reviewd by ryoji
|
|
|