|
文系のロックンロール
髭を聴いていると、彼らのロックンロールは文系ならではの表現なんだと感じる。彼らの歌詞は言葉の断片のような連なりで、まとまって訴えかけるというよりは、その都度、言葉の断片によってイメージを喚起するというものだ。そんなミニマムな言葉の繰り返しがあると思えば、髭の1stミニアルバム『LOVE LOVE LOVE』に入っている"無題"のように、ほとんど散文の過剰な饒舌もある。その歌詞というのが文系気質全開なのだ。『LOVE LOVE LOVE』の"髭は赤、ベートーヴェンは黒"では『ライ麦畑でつかまえて』とか引用があったり、フルアルバム『Hello!My Friends』の中でも"なんとなくベストフレンド"は、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』と村上龍の『だいじょうぶ、マイフレンド』の合体タイトルだけど、このタイトルに感慨を抱くのは、80年代前半を青春を過ごした人だろう(その頃、筆者は中学生だったのでもっと上の年代)。今で言えば『蹴りたい蛇』ってところか。
さらに"白痴"のサビの「イェーイ、総白痴化、一億総白痴化イェー」の「一億総白痴化」というのは、大宅壮一という評論家が1956年に言ったことで、テレビは低俗で、そんなもん観ている日本国民はみんな馬鹿になるとのこと。髭は死語を無理矢理墓場から引きずり出してきた感じだ。髭のメンバーはもっと若くて、リアルタイムでは体験していないのにも関わらず、彼らがそのような言葉を持ってくるのが、本で知識を得ている様子がありありとうかがえて面白い。
ヴォーカルの須藤は、声がオアシスのリアム・ギャラがーに似た声質というか、リアムのように歌うこと自体がどんなに気持ちいいことかを教えてくれる。例えば"白痴"の「高級ブランドに拘束の身」という歌詞の語尾を「の、の、みーーぃぃーー、の、の、みーーぃ〜ぃっ」と歌うところの声がまさにリアムである。それを支える音は、エフェクターで空間を塗り潰すのではなく楽器と楽器の音の隙間を生かした作りになっている。それがビートルズぽくもあり、ダイナソーJr.あたりのグランジぽくもある。
ライヴではもろにストロベリーフィールズフォーエバーな曲もあったりする。年明けのロフトで観たときも、他のバンドがあまりに変化球だらけだったこともあるけど、全体の印象は正統的なロックバンドに感じたのである。アルバムを聴き込んでいくと、ストレートな音と独特な歌詞との微妙な距離感が魅力的に響いてくるし、ダイナソーJr.に顕著な寝起きの悪い低血圧な感じもしっかり受け継いでいるのだ。アルバムには"ココロとカラダ、日曜日"のようにポップで気怠いものや"長尾氏" のようにスローでサイケデリックな曲もあってバラエティが豊かである。
このような、さまざまな引用から成り立っている歌詞、60年代から90年代までのギターロックの流れを受け継いでいる音、その2つの相乗効果が、単なる寄せ集めでなく、彼らの、タイトだけどルーズ、ラフなんだけど文系という振れ幅のあるロックンロールを作っている。
reviewd by nob
|
|
|