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ネリー・ファータドがポップ・ミュージックの地に降り立ったのは、幸運なことであった。彼女のファースト・アルバムである本作は、さまざまなジャンルの音楽を吸収したアーバン・ポップに仕上がっており、それはポップの進化形とも表現できる。何よりも、一羽の鳥がふと耳元に来て囁いたような彼女の歌声は、心から離れない。
彼女の音楽は、そのルーツの多様性を表してやまない。ポルトガルに生まれ、カナダで恵まれた音楽環境のうちに育った彼女は、英語、ポルトガル語、ヒンドゥー語を操り、トロンボーン、ウクレレ、ギターを弾きこなす。ヒップ・ホップ、R&B、ロック、ボサノヴァ...、多様なジャンルの音楽に触れてきた彼女のサウンドは、"ポルトガルの伝統とヒップ・ホップ、R&Bとの融合"とも表現される。本作において、それらオリジナルの音楽は、見事にアーバン・ポップへと転化されているが、それと同時に、そのオリジナルもまた、その境界から解放され、自由に変化する可能性を与えられている。
「とにかく、人々を明るくハッピーにするものを作りたい。」このように、ネリーが追求するのは、究極のポップミュージックである。しかしながら、本作の全体から、"Turn off the light"に代表されるような、けだるい憂愁感をかき消すことはできない。この心に訴える憂愁感は、ポルトガル民族音楽の情緒から発していると思われるが、またそれは、音楽に満たされて育った彼女の、音楽に対する敬愛の表現であるように感じられる。心を動かすようなポップは、音楽とそれを聴く人々への、愛なくしてはあり得ない。
とはいえ、彼女の音楽への情熱は、そうしたメッセージ性よりも、彼女自身の音楽の追求へと向けられている。「私は"音楽のためだけに"音楽を作ってきたし... それはとにかく、自分を満足させるものでなければならなかったわ。」彼女の自己表現は、その音楽世界へと集約されている。
本作の曲は、それぞれのタイトルとも相まって、聴く者に情景を浮かびあがらせる。ポルトガルとカナダの自然豊かな美しい島々で育った彼女は、自然のなかに音楽の一つのあり方を見出していたといえるだろう。こうして彼女の作る曲は、ドラマティックに、地平へと広がりを見せているのである。
もう一つ、ラップの要素も見逃すことはできない。彼女にとって、ラップのフリースタイルは、メロディを巧みに屈折させ、ポップに仕上げる役割を果たしている。彼女の独創的な歌声は、時にそのソウルをひき出し、時に一つのインストゥルメントともなる。
ネリー・ファータドは、自身を「音楽の放浪者」と呼ぶ。不思議で、危うげな彼女の音楽を聴くと、なぜか癒されるのは、信仰のようである。ある呪文を何度も唱えると、いつのまにかその暗示にかかってしまうような。未知のものに対して、人は本能的に反応するようだ。
ネリー・ファータドは、ミラクルな変化球を投げてくる。そしてそのサウンドは、思いがけず人肌に近い温度で、気持ちいい。彼女の音楽は、聴く者に不思議なパワーをくれるのである。
reviewed by natsuka.
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