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夜が更けるにつれ、湖泥のなかから漂うマグノリアの花の香り。魔女伝説の残される丘。まただれかが新しい穴を掘る。なにかを埋めるために。悠久に流れを変えることのない深い緩やかな川は、だが闇にまぎれて、これまで幾人もの人を呑み込んできた。
御大ジョン・レッキーをプロデューサーに迎えた前作『Miles From Home』から3年ぶり、8作目となるCOWBOY JUNKIESの新作。前回のアルバムが、荒涼とした大地にまっすぐと伸びた一本の道に漂う乾いた空気と蜃気楼、で、どこか颯爽とした旅路の歌なら、メジャーに契約を切られて再び自らの独立レーベルからリリースされた今作は、のっけから鬱屈としたフィードバック・ノイズに導かれる、ゴシック的な熱狂と闇に満ちた作品だ。
彼らは故里に似た土地に戻ってきた。
ロンドンでパンク・ムーヴメントに触れたマイケル・ティミンズが、その終焉とともに故郷のカナダに戻り、妹と弟、親友を誘ったバンドでリリースしたのが、ライトニン・ホプキンス等のカヴァーを集めた『White Off Earth Now!』。彼らには、ポスト・パンクとしてのブルースだったという。装飾の一切ない、憂いのある歌と凍てついたギターの染み出たサウンドは、6年ほど前後しているとはいえ、今思えば、YOUNG MARBLE GIANTSの『Colossal Youth』(UKにおいてポスト・パンクとしてのニュー・ウェイヴ/ネオアコ・ムーヴメントの原点ともいうべきアルバム)の雰囲気と驚くほど似ている気もする。
そして、トロント郊外の教会でたった2本のマイクと4トラックのMTRで録られた2nd『The Trinty Session』。静寂のなかに響く水滴のような、
シンプルに際立つサウンド、ロード・ムーヴィを見ているような情景的な世界に、マーゴ・ティミンズの、湿ったともかすれたとも言えないヴォーカルで、ハンク・ウィリアムズ、パッツィ・クライン、プレスリー、そしてルー・リード本人をして「過去最高のヴァージョン」と言わしめた、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの"Sweet Jane"が歌われているこのアルバムが、各地のカレッジ・レディオをきっかけに、ついには各音楽誌でプリンスやU2、ウォーター・ボーイズを差し置いて、1988年のベスト・アルバムに選ばれる出世作になる。
その頃から、バンドは、まるでサーカスや旅芸人がそうであるように精力的に全米各地のツアーに明け暮れ、オルタナティヴ・カントリー/フォーク/ブルースの先駆け的な道のりを歩んできた。そのスタイルは未だ変わらない。(初来日公演ではステージ中にナイトテーブルや燭台を置いて、そこにいっぱいのロウソクを飾っていたのが、とても印象に残っている)
アメリカの田舎のありきたりな生活や旅を描き出す歌詞は、カナダ人のマイケルにとっては創作だ。だから小説や映画に似ている。そして彼の視線はとりわけ、日常に埋もれた、虐げられた人々に向けられる。耽溺殺人やカニバリズムを匂わすものから、労働者と酔っ払いのいるダイナー、ただ退屈をまぎらわすためのセックス、そしてそこから抜け出す旅について。穴、川、闇、魔女。さめざめとした月。咽び泣くコマドリに夜鷹。深夜の貨物列車。純粋な日常。埃の被った日常。百年たっても変わることのない。
バンドはいろんな意味で、原点に帰ってきた。デビューして15年がたつのに、いまだにオルタナティヴな空気を、ハッキリと注いでくれるのだ。マイケルの荒々しい、だがツボを押さえたフィードバック・ギター、そこに縦糸と横糸が絡むように織りなされる、ペダル・スティールやマンドリンの安らぐ響き。マーゴの憂いだ歌声も、年を重ねるにつれますます艶やかになっているように思える。モダンな音響センスまで血肉化している。
今作でバンドは一つの境地に達した、と思う。連想するのはかつてのニール・ヤング&クレージー・ホース、そしてタウンズ・ヴァン・ザントの精神に触れたかのような、ジミ・ヘンドリックスの霊魂...と言えば言い過ぎか(いや、そんなことは決してない、と思う)。
メジャーに一方的に契約を切られるにあたり、再びオウン・レーベルのLatentに戻った彼ら。その活動はweb上でも精力的に見られる。そこでライヴ・アルバム2枚(うち1枚は日本未発表)を含む、これまで全てのアルバムから各2〜3曲づつ音源がダウンロード出来るので、是非彼らのHP(http://www.cowboyjunkies.com)を訪れてほしい。かつてのレーベルがバンドとは無関係にリリースする予定のベスト・アルバムの不買運動に協力してほしい、というお願いがあったり、なんとも反骨精神を感じさせてくれて、微笑ましかったりもする。もしそのベスト・アルバムに未発表音源が収録されていたなら、webでダウンロードできるようにするから、という気の配りよう。
もしあなたが気に入ったなら、webのJUNK SHOPで購入されてはいかがか? ぼくもライヴ・アルバムを手に入れたいのでそうするつもりだ。そして、今年のHOTHOUSE FLOWERSがそうだったように、こういうバンドこそfujirockで見たいと思う。ほんとうに。(もちろん朝霧でもOKだけど)
reviewed by ken.
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