Fukushima
福島のDJイヴェント・レポート
 福島県福島市で毎月行なわれているロックとテクノのDJイベントがあります。私はそのイベントのお客さんでした。「でした」というのは、私がこの4月から首都圏に引っ越してきたから。そしてマンスリーで開催されてきたこのクラブイベントは、3月を以って一時休止になってしまったからです。

 このDJイベントは「risingson」といいます。「rising」+「son」... すなわち「立ち上がる」+「ムスコ」です。自分の大学の後輩であり、ブラーのグレアム似でもあり、なおかつ間違いメールで知り合ったsuzukiくんという若者の尽力で、このイベントは去年の10月には産声を上げました。

 このクラブイベントは、東京でもなく、大阪でもなく、ましてや仙台や札幌でもなく、「福島市」という、わずか人口27万人の地方中都市で立ち上げられたというところがポイントです。

 いいですかみなさん。福島ですよ? どこにあるか知ってますか? 洋楽のアーティストはおろか、日本人のミュージシャンすら滅多にライヴしに来ないようなそんな東北の田舎街です。もちろんHMVもヴァージンもタワーレコードもありません。輸入 盤や海賊盤を扱っているお店もありません。これまでもロック系のクラブイベントはわずかながらあったみたいなのですが、長持ちした例は一件もないそうです。 まったくのDJ素人だった若干20才のsuzukiくんは、そんな状況にも関わらず、この地で新たにロックイベントを立ち上げ、ロックのクラブイベントを根付かせようとがんばりました。いや、根付かせようとがんばっています。

 去年の10月の旗揚げから月1の割合でこの「rsingson」は開催されてきましたが、でもsuzukiくんには悪いけど、はっきり言ってお客さんは来ませんでした。60人入れば採算が取れるというハコで、その10分の1しかお客さんが入らないなんてことも ありました。

   suzukiくんは寡黙です。プレイの合間に饒舌な語りを入れるなんてことは絶対にありません。そしてDJブースで楽しそうに踊りまくるなんてこともしません。フロアをちらっちらっとたまに覗き見るほかは、ずっと下をうつむきながらレコード針とにらめっこしています。曲も時にマニアックで踊りにくいものになったりします。誰も知らないものだったりします。みんな座っちゃうこともあります。

 でもsuzukiくんのプレイには明確な意思があります。「彼が好きな曲」、しかかけないということです。客に媚びたりしません。私も彼には様々な曲をリクエストしてきましたが、ほとんどかけられたことがありません。 でも私は「risingson」に 行きました。毎回。「今日はお客さん入ってるかなあ」と門をくぐると、やっぱり客は入っていません。

 そして自分の信じる絶対に好きなレコードに丹念に針を落とすsuzukiくんが、こちらを向いて何か申し訳なさそうな表情を見せながらも、まったく視線を合わせることなく、また次のマニアックなレコードを棚から引っ張り出してきます。決まりきった挨拶や会話はありません。でもそれでいいんです。一方的にも見えるレコードを介したsuzukiくんのコミュニケーション術は、不器用でありながら自分に対して非常に忠実であり正直であり誠実でもあります。福島という生ぬるい地に住みながら、月に一度、最もロックを感じられる瞬間がこの時なのです。

 客入りの不調から一時休止となった「risingson」ですが、実は5月か6月あたりにまた新たな形で復活するかもしれません。もちろん場所は福島です。 もくもくと広大な荒地を耕してきたsuzukiくんですが、いよいよそこに種を蒔く時期がやってき たのかもしれません。でもそれが芽を出して真の「立ち上がるムスコ」となる瞬間にも、suzukiくんは彼の猫背をさらに丸めながら、そそくさと次のレコード盤をまさぐっていることでしょう。そしてそれがsuzukiくんであり、risingsonの正しい コミュニケーション方法なんだと思います。

ちなみにそのsuzukiくんのホームは ここです。

Reported by Kats


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