イアン星人との音楽遊泳ライブ
 不安と期待が入り交じって臨んだ、イアン・ブラウンの来日公演。結果は、彼の音 楽的懐の深さが感じられ、ファンキ−でキャッチ−な新曲『Four Moons』も聴くこと が出来た上に、様々な工夫が凝らされて娯楽性に富んでいるという充実度満点の内容 であった。

 会場は恵比寿ガーデンホール。イアンが8時すぎに登場すると場内は歓喜の嵐とな った。その興奮状態にのめり込んでくる様に始まったのは、インド調の神秘的なイン スト。最初は戸惑ってしまうが慣れてくると、これが気持いい。徐々に濃厚なオリエ ンタル・グル−ブの渦と化し会場を包み込んでいく。次いで意表を突いて演奏された のが、ジミ−・ヘンドリックスの『Little Wing』。このブル−ス・フックが効いた のか、観客の高揚度は更に増して行く。以降、イアン・バンドと観客の足並みが崩れ ることは一瞬たりとも無かった。

 この前振りで準備が整った処で、アルバム『Unfinished Monkey Business』の持つ 魅力を数十倍にして体現した<お猿の親方ライブ・オン・ステ−ジ>の火蓋が切って 落された。ここで貢献度が高かったのは、ムード・メーカー的な存在にもなっていた 、パーカッショニストの自称ゴールド・フィンガー氏。曲に躍動感と愉快なリズム感 をもたらすという素晴しい仕事をしてくれた。アジズはイアンの右腕となり『Sunshi ne』では叙情的なアコースティック・ギターを披露。彼の夕焼けを描くような暖かみ のあるギタ−の音色が、イアンの悠々としながらも、どこか侘びしさを漂わせる歌声 と絶妙に絡み合い<猿次郎 男はつらいよ>のテーマとして心に染み入った。

 ビ−トルズの『Dear Prudence』を中間部でアレンジした『My Star』では、イアン と観客が一致団結。<みんなの歌>として観客全員による大合唱が自然発生的に巻き 起こった。その状況にイアンも御満悦な様子であった。あの曲の持つスぺ−シ−で夢 心地な雰囲気がライブで見事に再現され、まるで会場が丸ごと宇宙船と化し、イアン 星を目指して、雄大な宇宙空間を旅している気分になった。

 そして迎えたアンコール。ここで私達は思い掛けない曲をプレゼントをされること になる。なんと『Sally Cinamon』をアジズのギター演奏だけをバックに、イアンが 珍しく音を外さずに、誠実な態度で歌い始めたのだ。イアン独特のセンチメンタルで 朴訥、そして愛くるしいマジカル・ボイスが会場に響き渡る。その瞬間、私の中で葛 藤が起こった。この曲を楽しむべきか、楽しまざるべきか。結局、私は前者を選び、 あの名曲を心から堪能してしまった。なぜならイアンが「歌う」という行為を楽しん でいる様に感じたからだ。

 イアン星人との1時間半に及ぶ音楽遊泳。それは、まさに夢のような一時であった。

*「Four Moons」をイアン・ブラウンが披露したと冒頭に記載したのですが、 それは今度、彼が出版する予定の本の題名であることが判明しました。 知人の情報を鵜呑みにして、記載してしまったことを大変反省しております。
著者より

Reported by Mao Ise


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