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1ヶ月。これはホット・ホット・ヒートがイギリスで、小さなライブハウスから中堅並みの会場へ昇進するのに掛かった時間である。4月6日、カナダ出身のこのバンドは、250人も入れば満員のパブ兼ライブ会場で初のロンドン ライブを行った。丁度シングル"Bantages"がラジオで掛かり始めた頃で、聞いた話によると、ほどほどに埋まった会場は一晩でライブを二つ掛け持ちしてそうな業界タイプで溢れていたという。 ホット・ホット・ヒートは、その日の観客をよっぽど魅了したに違い無い。5月2日には1200人規模のULU、それから二十日後の今夜は1300人規模の Electric Ballroom へと進出し、どちらの会場も売り切った。この2会場の動員数を足すと、バンドの観客の数は二ヶ月足らずで一桁増えたことになる。こういう状況の裏には、必ずといっていいほどハイプがある。 "Bantages" はラジオで、エレクトリック・シックスの"デンジャー!ハイ ボルテージ!"以来最大のヘビ−・ロ−テ−ション曲となり、ホット・ホット・ヒートの名は嫌でも耳に入ってきた。4月に発売されたデビューアルバム『Make Up The Breakdown』は思いがけず秀逸な出来で唸らされたが、それにしてもこの超高速な成功は、余りにも最小の努力の下に訪れたような気がしてならない。今夜の筆者の不安は、そんな思いに基づいていた。 今夜のステージには、もう一組のプレス一押しバンドが登場した。リバプ−ル出身のバンディッズだ。このバンドは、オアシスのヨーロピアン ツアーのサポ−トを務めたことでも知名度を上げた。全員がジャージを履いてボサボサの髪をしているが、音もその見た目通りのストーナー系インディ・ポップだ。ギターは非常に高い位置で抱えられている。ステージはサイケデリック色の強いロックで始まったが、ニュー・シングルの"Take It And Run"は海辺のメリーゴーランドを思わせるような気持ちの良いポップだった。しかしこの後バンドは、コーラル的な要素が混じったカントリー・ウェスタンへと傾倒していく。この組み合わせは、まずい。ステージの最後まで、そこそこに良いサイケロックと酷いカントリー・ウェスタンの曲が入り交じって演奏された。枠にはまらないバンドに成りたいのは分かるが、小々力み過ぎているのでないだろうか。もしバンディッズのメンバーがコーラルのレコードを持っているとしたら、今直ぐに棄てた方がバンドの為にはいいだろう。 期待外れだったバンディッズによってますます不安が募る中、客席に一種の電光のようなものが走った。それが盛大な歓声に変わる前にホット・ホット・ヒートのメンバーはステージに飛び出し、はっきりとメンバーの姿を確認する暇もない早さで、一曲目の"Touch You, Touch You"が始まった。そしてこの曲がニ小節目に入る頃には、客席の半分がモッシュと化していた。あまりに迅速な展開に思考が追い付かず、最初の2,3曲は冷静に覚えていない。しかしセカンド・シングルの"No, Not Now"で客席と合唱対決を行ったあと、バンドは水を飲むために休憩を入れた。観客も、ここで初めて一息付く。 「今日で三回目になるけど、ロンドンでライブができるなんて今だに夢みたいなんだ」と、シンガー兼キーボード奏者のスティーブ・ベイは言う。この発言には、大きな声援に混じって多少の冷やかしが寄せられた。「オーケー、君たちがここに住んでるっていうのは分かっているけどさ、でも、、、考えても見ろよ!」。これは今夜の観客にとって嬉しい言葉だっただけでなく、ホット・ホット・ヒートの音楽から聞き取れるような気のした英国びいきの感情も確かにした。アルバムでは、イギリス製のニュー・ウェーブとアメリカ製のポスト・パンクを混ぜ合わせたような音楽が主流になっていた。(イギリスとアメリカを足すと、カナダになるのか?)。その他にも、スカや80年代のポップス、ブルース、ガラージ・ロックといった要素が複雑に織り込まれている。暖かい雰囲気が流れる中、時計の針のようなドラムと弾かれたベース音が流れ出し"Oh, Goddamnit"が始まった。恋愛の喜びと憎しみをブラック・ユーモア的に詠った歌詞を、スティーブ・ベイの鼻にかかった高音の声がたっぷりと歌い上げる。この先の五十分間、観客のダンスが止むことは一時として無かった。 ホット・ホット・ヒートの一番の個性は、スティーブ・ベイのボーカルにある。彼は息を突く暇もなく、バンドの速度に合わせて加速/減速/停止/開始とギアを変えていく。このスタイルは、デイビット・バーンやワイヤーのコリン・ニューマンといったポストロックの大御所シンガーに通じるといえるだろう。彼の動作にも、同じくギア操作されているようなメリハリがある。マイクを握った手首をあらゆる方向にくねらせながらステージ中を駆け回る彼は、生まれながらのフロントマンだ。その間でも、声は一糸も乱れない。最初はベイの原色のように大胆な存在感は、ほかの点では堅実で硬派なこのバンドのロック性を濁しているのでは無いかと感じた。しかし6曲目の"Talk To Me"辺りから、ベイのキャラクターこそが、カフェイン過剰のような精力をこのバンドに与えているのだと気が付いた。 このユニークなボーカルについてどう感じるかは個人次第だ。しかし今、目の前で展示されている確かな音楽才能を否定するのは不可能である。このバンドの技術は非常に高い。ライブではあまり演奏しないと言っていた "Aveda " では頼り無い箇所があったが、後は全てレコード録音のように完璧だった。一筋縄ではいかない音楽の構築の仕方、現代風味を加える堅いドラム、そして予想不可能に進行するギター。それにまるでパーカッションのように叩かれるベイのキーボードが加われば、観客の脈拍は早まるばかりだ。そのキーボードのメロディがうねるようなベースと結合された時には、いくら冷静な人物でも、彼らの音楽に体を揺らせずにはいられないだろう。 今夜のセットでは、"Make Up The Breakdown"からの曲に混じり、過去に発売されたEPからも六曲が披露された。英国ではまだアルバムしか正式発売されておらず、古い曲に対する観客の反応は多少控えめだ。しかしバンドから発散される新鮮で純粋なエナジーは一定してハイで、壁にぶつかっては大きく跳ね返る。その様子があまりに楽しそうで、EPの収録曲をしっかりとチェックしてこなかったのが悔やまれた。 ステ−ジ後半にはアルバムからの曲が続いた。神経質なシンバルさばきが脳天に響く"Naked In The City Again"の後は、デキシー・ミッドナイト・ランナーズのボーナス・トラックにありそうな"In Cairo"、そしてヒット曲の"Bantages"へと流れ込み観客をこれでもかと踊らせたあと、バンドはステージを去った。大歓声に押されて戻ってきたアンコールでは、"This Town "を演奏した。ステ−ジ中には言葉少なかったバンドだが、ここでは謙虚なほどに、今日の観客の暖かな反応に感謝していた。 ホット・ホット・ヒートは、果たしてプレスに安易に持ち上げらた実力の追い付かないバンドだったか?ここまでこのレビューを読んで頂た人なら、もう筆者の答えは分っていると思う。彼らは、NME誌の表紙を一週飾っただけで終わるようなバンドでは無い。確立されたオリジナリティ、聞く者を引き込むメロディ、ライブでの力量を兼ね備えたバンドには、今の熱狂はかえって邪魔かも知れない。このバンドの真の人気は、ハイプが終わった時にこそ大きく広がるだろう。 report by naoko |
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