button有事法のまやかし〜 国民を守らない有事法 〜 (2003年5月19日)
 先日、与党自民党と保守新党、公明党、野党民主党、自由党の賛成によって有事3法案が衆議院で可決され、審議は参議院に送られた。賛成した党の参議院での議席は8割を超えているので、今国会での法案成立は確実になった。結局は、自民党と民主党の"政治的"合意というお互いの都合が優先されて、両党が歩み寄った形だ。そしてその2つの党が説明するのは「テロや外国の軍事的な脅威から国民を守るために必要な法律」だということ。

 しかし、はっきり言ってしまえば、この有事法案は国民を守らない。

 それどころか、実際イラクに対して行なったように、アメリカが一方的に仕掛けた戦争にいやおうなしに巻き込まれる可能性がある。というよりそのための法律なのだ。

 もともとこの有事法案は、99年5月に成立した《周辺事態法》と表裏一体である。《周辺事態法》とは『日本の周辺でもし紛争やテロなどの軍事的な非常事態が起こって、米軍がそれに対応したときに、自衛隊は米軍の後方支援を担当する』ことを決めた法律。日本の周辺とは、広くインド洋にまで設定されている。今回の有事法は、もしそいう周辺事態が起こった場合、総理大臣の判断のみで、日本を基地にしている米軍施設を自衛隊が守るために、私有地を接収して陣地を築いたり、食料や弾薬、医薬品等の物資を前線にスムーズに供給するために、地方自治体や民間企業に命令して物資を優先的に確保し、米軍や自衛隊が一般の港や空港を使って輸送できる、またはトラックや船舶、航空機といった民間の輸送業者を動員できる、ということを定めている。

 要は戦時中の国家総動員法と発想は同じ。戦争時には国を挙げて協力しなければなりません、という法律だ。テロ対策については、具体的にはなにも触れられていない。

 もし民間人が命令に背いた場合、物資保全命令の違反者に対しては、現行犯逮捕が可能な刑罰が科せられる(3年以下の懲役または60万円以下の罰金)。業務従事命令には罰則規定が省かれたが、これは個人に対してではなく企業や団体に対して出されるので、例えば国から「前線近くの港まで物資を運びなさい」という命令を受けた船運会社の船員が、「そんな危険なところに行くのは嫌だ」「戦争は反対だから行かない」といって解雇された場合について、この法案は責任を負わない。

 民主党が主張して付け加えられた『基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならない』という一文についても、実はトリックがある。なにも『基本的人権は最大限に尊重されなければならない』とは書かれていない。尊重されなければならないのは『規定』なのだ。ではどういった規定なのか、なにをどこまで規定するのか、といったことはこの法案ではまったく触れられていない。『最大限』という言葉の定義自体、曖昧どころかまるで議論されていない。

 それは民主党のイメージ戦略のために、自民党が実害のない程度に花を持たせただけにすぎず、結局は談合で決まった法案だからだ。

 有事における国民の権利を規定する《国民保護法制》は、『(有事3法案のうちの1つ)武力攻撃事態対処法の施行日から1年以内を目標として整備する』と先送りされた。内容についてはなにも議論されず、タイムテーブルも曖昧にされたままだ。今後国会でも議論されるだろうが、大いに懸念されるのは、北朝鮮危機がふたたび現実味を帯びていくことが予想されるなかで、そのことを理由に世論が誘導されて、国民の権利を大幅に制限した《保護法》が出来上がらないか、ということだ。  ちょうど9・11を経験したアメリカのように。

 アメリカではアラブ系というだけで令状もなしに拘束され、盗聴や検閲も公然と行なわれた。ただ『有事』ということだけを理由に、完全な人権侵害を法律で認めるようなことになりかねない。

 他にも問題点はたくさんある。民放を政府の指定公共機関から除外する件も、法的な拘束力のない付帯決議で「報道・表現の自由」を確認しているだけだ。『軍事機密』や『外交機密』といって政府に不都合な情報を意図的に流させないためには、表向きは『自主規制』と謳わせるだけでいい。記者クラブ制度をはじめ、日本のマスメディアは伝統的に談合重視の横並び主義だから、慣例に抵抗感なく従うだろう。それに4党間で検討するとした《包括的基本法》では、まったく性質の異なるテロと災害を同じ緊急事態として扱っている。

 もう一度確認しておくが、この有事法案はなにも『自衛隊が国民を守ることを定めている』法律ではない。

 それどころか防衛庁幹部は「我々は武力侵攻してきた敵と戦闘しているわけだから、自衛隊が直接国民を守ることはありえない。我々が守るのは国であり、国体だ。ひいてはそれが国民を守ることにもつながる」と、まるで悪びれるふうもなく明言している。沖縄戦において旧日本軍が言っていたのとまったく同じ文句に、うすら寒い感覚に襲われる。

 住民の戦闘地域からの避難誘導についても、自衛隊は上記の理由を繰り返す。それで鉾先を向けられた警察はというと「治安維持のために出動していて、そこまでは配慮できない」と、とばっちりを回避する。結局は自治体任せと言いたいらしいが、 自治体は「国民保護法制が整備されないことには対処のしようがない」とお手上げ。

 じゃあ、いったい誰が国民の生命や財産を守るのだろう? なにがそれらを保障するのだろうか?

 そして誰が、どこの国が実際に攻撃してくるのだろうか? 冷静に考えれば、北朝鮮が暴走するよりも、アメリカが北朝鮮に対して先制攻撃を行なう可能性のほうが高い気がするのだが。

written by ken


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