|
|
今まで生きてきた中でいろんな音楽を聴いてきて、今日ほど心が洗われる思いをしたのは初めてと言っても過言ではありません。好きなアーティストのライブに出向いても、アーティスト自身の生の姿を見たかっただけだったり、いつもCDで聴いている音と比べてみたり、汗だくになってただその場の盛り上がりと共にはじけてみるだけだったり、あまり音楽そのものに純粋に心を動かされた経験ってなかったような気がするのです。でも今日エディ・リーダーの歌声を耳にして、大げさかもしれないけど「生きてて良かった」って思ったんです。心が洗われるだけでなく、化粧水をパシャパシャはたいて、傷んだところにご丁寧にクリームまで塗ってもらった、そんな風に思えるほど身も心も癒された感じがします。
2002年3月19日ラフォーレ・ミュージアム・六本木。いかにも音響設備の良さそうなホールに客席が並べられ、ステージにはマイクと椅子が3つずつ、それに丸型のテーブルがちょこんと置かれていました。今回はエディと、長年一緒に演奏しているブー・ハワディーン、ギタリストのコリン・リードの3人だけのアコースティックセッ ト。タネも仕掛けもないシンプルな舞台が、結果として各ミュージシャンの演奏をより引き立てていました。
会場が暗くなり舞台袖から男の人がとぼとぼと登場。「え?どちらさん?」と思っていると彼はギターを演奏し始めました。小川のせせらぎのようなギター、叩くようにして弾く攻撃的なギター、と曲によって同じギターなのに表情が次々と変化するのに驚きました。彼はコリン・リードですと自己紹介をし、コニチハ、コバンワとかなり即席な日本語を披露。後にエディが、彼と会ったのはグラスゴーで、いい感じに酒を飲んだたくさんの酔っ払いが集うPUBででした、彼がステージに上り演奏を始めるとそれまでがやがやしていたPUBは一瞬にして静まり、皆の衆は彼の演奏に聴き入っていました、そこで彼に一緒に日本に行かない?って声をかけたんです、と言っていました(なんてすごいチャンス到来!)。
コリンが3曲演奏したあと、もうひとりのおじさんが登場しました。さてはこの人が ブー・ハワディーンだなと思いつつ、コリンと似てて「双子?」と見紛うばかり。良く見たら違う顔してたんですけど。ブーちゃんはギターを弾きながら歌も歌う人でした。失礼ながらその風貌からはにわかに想像のつかない美声の持ち主。1曲目はメランコリックな感じでしたが、2曲目はロックンロール。思わず手拍子をしたくなるようなテンポのある歌でした。ステージで演奏する2人を見ていたら、まるでPUBにいるような錯覚に陥りました。グラスゴーのPUBとかだったらこんな風に普通っぽい人が普通に演奏してそうだもん。一杯やりながら聴きたくなりました。
ブーちゃんが「そんなとこにいないで出ておいでよ」と言うと、袖にいたエディ・リーダーが恥ずかしそうに登場。紫色のピチピチのセクシードレスを身にまとった彼女は、CDジャケットやWebなどで見る彼女と全然変わらない! スターなのにちっともスター然としてなくて、ナチュラルなんだけど、でも美しくて... 実は私はちょっと前までエディ・リーダーという名前を聞いてマリアンヌ・フェイスフルみたいな渋〜い大御所だと思っていたんです(無知は怖い)。全然違った(笑)。
彼女は鬼束ちひろのように手を上下にひらひらさせながら、変幻自在に声を操り歌います。単純に「歌がうまいなぁ」とほれぼれしましたが、そんなつまらん感想しか持たないわけはありません。歌詞やタイトルに"Soul"、"Pray"、"Lord"、"Love"などという言葉があふれ、同時に彼女の「手ひらひら」が何か見えないものをつかもうとしているように上へ上へ歌声と共に上っていく感じがしました。合わせて"Wing"という言葉も象徴的だなと思いました。彼女が「紙の翼じゃ折れてしまう」と歌っているにも関わらず、彼女の背中には羽根が見え、掴まえておかないと飛んでいってしまうような気がしたからです。人が彼女の歌声を「天使の歌声」と表現するのもなるほどと思いました。
聴き入っていると、ないものねだりの私の性格が頭をもたげて来ました。「こんな風に持って生まれた美しい声を駆使して、自由に歌えたらどんなに気持ちがいいだろう」とほんわかした気持ちになっていると、急に現実的になり「おい、女の癖に顕著な声変わりを経験したのはどこのどいつだ?」と別の自分に突っ込まれ、ひとりでやるせなくなってしまいました。いつだって隣の芝生は青いもんだけど、それでも「神様、今度また女に生まれてきたら、せめて声変わりはやめてください。ちょっと願いを叶えてくれるなら、お歌がうまい子がいいなぁ」などと恐れ多くも祈った次第です。
上へ上への歌声は、やはり私に「自然の中で見たい」と思わせました。屋外のステージで、例えばフジロックだったらヘブンとかで見たい。でも彼女が「どこで歌うかは問題ではない」と言っていたのを思い出し、確かに自然の中で歌うことは彼女の魅力をより充分に引き出すはずだけど、演出やシチュエーションに頼らない、どこでやっても心に響く歌声なんだから、と考え改めました。
もちろん彼女の魅力は歌声だけではありません。曲調によって歌い方を変え、時には優しく、時にはセクシーに、たまになぜかハワイアンダンスのような振り付けをしてみたり、「ウルフ」という曲ではオオカミの鳴きまねをしてみたり、アメリカ南部っぽく歌ってみたり、といろんな顔を持っていました。ユーモアのセンスもあるし、オーディエンスにも「リクエストあったら言って」とか気さくに話し掛け、「ああやっぱり魅力的な女性はこうでなくてはいけん」と、いっぺんに彼女を好きになりました。お手本にせねば!(またないものねだり?)
ライブが始まる前「今日はセットリストが出てないんです」と伺っていた通り(まぁある程度はセットしてたでしょうが)、エディはステージ上で新たにやりたい曲を決めているようでした。自身のアルバムの中からはもちろん、フェアグラウンド・アトラクションの「パーフェクト」をやったり、映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーンが歌っていた「ムーン・リバー」を歌ったりしました。その他もコリンのアルバムに入っている「ネヴァー・ゴーイング・バック・アゲイン」という曲や、ブーちゃんに「あなたももっと歌いたい?」と聞くなど、決まりきっていない自由なライブステージが微笑ましかったです。
毎日眉間にしわを寄せ、やりたくないことに従事しているくせに文句ばっかりたれている自分。目に入るもの、耳に入るものすべてが自分を非難しているように感じる悶々とした日々。考えすぎるきらいのある私に彼女はひとつのキーワードをくれました。"Simple Soul"です。この歌の歌詞がわからないのでもしかしたら歌っている内容と違うかもしれませんが、私はこの言葉を聞いた時、凝り固まったちっぽけな自分がなぜか開放されるような気がしました。勝手な言い分かもしれないけど、「大丈夫だよ」と優しく声をかけられているような感じでした。そう思ったら涙が止まらなくなってしまって、ステージ上の3人が曇って見えました(書きながらも泣けてくる)。しかもこの効果は持続性を持ち、ライブが終わってひとり東京の街を歩きながらも、涙腺は緩みっぱなし。みなさんも心のケアにはエディ・リーダーを、是非。
repot by kaori and photo by hanasan.
なお、写真は20日のものを使用しています。
|